3.2 核破砕中性子源開発に向けて
   ─水銀ターゲット研究軌道に乗る─
   


図3-4  イメージングプレート技術による入射陽子のプロファイル測定

図はエネルギー24 GeVの陽子ビームに対するもので、その他に1.5 GeV、7 GeVの入射陽子に対しても測定しています。また1.5、7、24 GeV入射陽子総数の測定を行い、それぞれ、(6.61±0.74)×1013、(3.57±0.40)×1013、(1.84±0.21)×1013でした。この結果は、水銀ターゲットの諸特性の実験解析の基礎となるものです。

 


図3-5  実験に用いた水銀ターゲットの断面図

AGSからの陽子ビームはターゲットの左側から入射します。中性子エネルギーに対して感度が違う、種々の放射化箔検出器を用います。

 


図3-6  中性子反応率分布の測定結果の一例

15 GeV、7 GeV、24 GeVの陽子を水銀ターゲットに入射した時のインジウムと中性子との反応率(115In(n,n)115mIn)のターゲット内分布です。図の縦軸は陽子1個がターゲットの水銀原子1個と衝突して発生した中性子がインジウムと反応した数に相当します。反応率の測定結果から発生中性子数やそのターゲット内の分布を知ることができます。

 


 大強度陽子加速器を用いる中性子科学研究計画の柱の一つとして、高エネルギー陽子ビームによる核破砕反応で発生する多量の中性子を利用した中性子散乱実験を計画しています。この核破砕中性子を生産するターゲットとして水銀が最も有望視されています。陽子ビームの入射によりターゲットに熱が発生します。この熱を効率良く冷却でき、かつ多くの中性子を発生する材料として原子番号が大きい水銀が最も適していると考えられています。しかしながら、これまで水銀からの中性子発生について測定した例が無いので、実験で確かめることが必要となります。
 そこで、水銀ターゲットの中性子特性、熱特性や機械特性を調べる実験が、「核破砕ターゲットに関する国際共同実験」の一環として米国ブルックヘブン国立研究所(BNL)にある陽子シンクロトロン加速器(AGS)を用いて進められています。
 AGSからターゲットに入射する陽子の数とその空間的な広がりを原研が開発したイメージングプレート等を用いて測定しました(図3-4)。測定結果はターゲットの中性子特性のみならず熱や機械特性に関する実験を解析する初期条件として重要になります。
 中性子特性を調べるために、直径20 cm、長さ120 cmの水銀ターゲット(図3-5)に1.5 GeV〜24.0 GeVの高エネルギー陽子を入射し、ターゲットでの核破砕中性子の発生とその移動挙動を調べる測定を世界で初めて行ないました。中性子のエネルギーに対して感度の異なる種々の放射化箔検出器をターゲット上に配置し、放射化箔の中性子との反応率分布を測定しました(図3-6)。この実験により、水銀ターゲットでの核破砕中性子の発生量やその空間分布を知ることができ、水銀ターゲット開発に弾みがつくものと期待されます。


参考文献

H. Nakashima et al., Measurement of Incident Proton Beam Characteristics for AGS Spallation Target Experiment, Proc. of the 14th Mtg. of the Int. Collaboration on Advanced Neutron Sources, June 14-19, 1998, Starved Rock Rodge, Utica, Illinois, ANL 98/33 (II), 448 (1998).

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たゆまざる探究の軌跡−研究活動と成果1999
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