3.4 原子で磨いた中性子の鏡
   ─中性子強度4倍アップに成功─
   


図3-9  イオンポリッシュ法によるNi/Ti多層膜の透過電子顕微鏡写真

アルゴンイオンを低エネルギー・低角で照射して作成することにより多層膜の界面粗さが著しく低減されているのがわかります。(各層の厚さは50Å)

 


図3-10  スーパーミラー導管の設置

JRR-4原子炉プールに初めてスーパーミラー導管を設置し、即発ガンマ線分析装置に必要な107の中性子強度を、低バックグランド下で得ることに成功しました。さらに、JRR-3の中性子散乱実験装置への設置を進めています。

 


 原子炉や加速器で発生した中性子ビームを反射させ、物質・生命科学研究を目的とした実験装置へ輸送・分岐・集束するための鏡がスーパーミラーです。これはエネルギーの低い中性子が、光のように波の性質を顕著に示すことを応用したもので、中性子はスーパーミラーを形成した導管中を何度も反射しながら遠方まで輸送されます。スーパーミラーは、中性子を反射する層とバッファー層から構成される多層膜で、厚さやピッチを連続的に変化させることによって、中性子ビームをより大きな角度で反射し、効率良く輸送することができます。
 高性能スーパーミラーを形成するためには、多層膜を原子層オーダーで作成する技術が必要になります。原研ではスパッタリングによる成膜にイオンポリッシュ法を適用することにより、多層膜界面を原子層オーダーでシャープにすることに成功しました(図3-9)。この方法は低エネルギーのイオンビームを成膜直後の多層膜に照射し、イオンビームの照射により結合力の弱い原子をはじき飛ばし表面粗さを研磨するという微細加工技術と薄膜形成技術を活用したものです。
 JRR-4の即発ガンマ線分析装置に高性能スーパーミラーを設置し、中性子強度を4倍に増加できました(図3-10)。今後、原子炉や現在計画中の加速器中性子源のビーム実験において大いにその性能が活用されることになります。


参考文献

K. Soyama et al., Fabrication and Characterization of NiC/Ti Multilayer Supermirror Deposited Using Ion Beam Sputtering, JAERI-Research 98-067 (1998).

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たゆまざる探究の軌跡−研究活動と成果1999
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