4.3 半導体レーザーを励起源とする高効率・高出力の緑色YAGレーザーシステムの開発
   


図4-6  全固体緑色(1J)

Nd:YAG レーザーシステム

 


図4-7  高繰り返し固体レーザーシステムの構成

発振器、前置増幅器、主増幅器(2台)はいずれもスラブ状Nd:YAG結晶とそれを励起する半導体レーザー(LD)からできています。高調波変換にはLBO結晶を使います。

 


 数十フェムト秒(10−15秒)という短時間に励起エネルギーを一気に放出するチタンサファイア結晶は、超高出力用のレーザー媒質として科学・産業の広い分野で応用が期待されています。チタンサファイアは緑色の光で励起され、波長約800 nmのレーザー発振をします。原研では、この極短パルス・超高出力チタンサファイアレーザーにふさわしい励起用の光源(ポンプレーザー)としてコンパクトな繰り返し数の高い、出力の高い固体(Nd:YAG)レーザーの開発に成功しました(図4-6)。
 これまでのチタンサファイアの励起光源は、Xeガス等の放電フラッシュランプによってNd:YAG結晶を励起し、発振する赤外光を波長変換して得られる緑色光が使われていました。しかしフラッシュランプからの波長範囲の広い光の大部分は、(Nd3+)に吸収されるごく一部を除いて、YAG結晶を加熱するので発振効率は低く、また高繰り返しができません。そこでまず(Nd3+)が吸収できる光だけを発生する半導体レーザーを励起光源として、Nd:YAGのスラブ状(平板状)結晶を使って熱の流れを一方向に限定し、その中をレーザー光をジグザグに伝播させて結晶の熱歪みを抑える一方で、Nd:YAGレーザーからの質のよい(TEM00)低出力レーザー光を前置増幅器、主増幅器で徐々に増幅するやり方で熱発生の効果を分散させる全固体レーザーのシステム(図4-7)をつくりました。また大出力用の大きな結晶の使用にともなう熱レンズ効果を防ぐためにレーザー結晶内のレーザー光イメージを次の結晶に転写するという像転送技術を使います。
 こうして200 Hzの繰り返し数で、平均パルスエネルギー1.25 J、波長1,064 nmのレーザーが得られました。これを非線形結晶LBO(LiB3O5)により波長532 nmに変換し、結局、平均出力105 W、繰り返し170 Hzのチタンサファイアポンプ用の固体レーザーシステムが完成しました。このシステムによる電気から緑色光への変換効率は2%、従来のフラッシュランプの場合の0.2%からみると格段の進歩です。


参考文献

K. Tei et al., Diffusion-Bonded KTiOPO4 Crystal for the Second Harmonic Generation of High Average Power Zigzag Slab Nd:YAG Laser, Jpn. J. Appl. Phys., Part 2 Lett., 38(2), 35 (1999).

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たゆまざる探究の軌跡−研究活動と成果1999
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