4.4 瞬間出力100TW(テラワット)の小型チタンサファイアレーザーが発振
    ―X線レーザーの開発を目指して―
   


図4-8  100 TW級Tキューブレーザーの発振

レーザー発振中の増幅器を撮影したものです。レーザー媒質のチタンサファイア結晶(赤色円盤状)は、左側が10 TW級、右側が100 TW級の増幅器に使用されているものです。結晶の両側から励起用固体レーザー光(緑色YAGレーザー)が入射しています。

 


図4-9  102 TW Tキューブレーザーのパルス波形の実測値

極短パルス光の波形の計測には、測定すべきレーザー光を二分割してそれを再度重ね合わせる相関計測法という特殊な方法を用います。パルス幅は、この図の遅延時間波形(最適評価波形)から求められます。

 


 パルス幅が短く出力ピークの極めて高いパルスレーザーの開発は、夢の光源といわれるX線レーザーの実現をめざす多くの研究機関の激しい競争のさなかにありますが、原研では、小型のチタンサファイアレーザーシステムを用いて、パルス幅19 fs(フェムト秒)、ピーク出力100 TW(テラワット)のレーザー光を10 Hzという高い繰り返しで発生させることに成功しました。実験室規模の小型レーザーでピーク出力100 TWを達成したのは世界で初めて、最終目標の1,000 TWに向けて努力を続けています。
 現在、世界中が開発に取り組んでいる小型超高出力レーザーは、チャープ・パルス増幅法(Chirped Pulse Amplification: CPA法)とよばれるものです。CPA法は、強度の低い極短パルスレーザーをパルス拡張、増幅、圧縮によって超高出力・極短パルスのレーザー光とする方法です。本方法によるレーザーは、卓上に乗る大きさでテラワット級のピーク出力を出せるので、Tキューブレーザー(Table-Top TerrawattでT-cube Laser)とも呼ばれています。原研が開発しているのもチタンサファイアレーザーにCPA法を組み合わせたものです。しかし、パルス幅を狭くすることとピーク出力を高くすることは、非線形効果のために両立しません。
 今回の成果は、パルス幅の広がりが起きないようにレーザー内部においてスペクトルを制御する技術を開発する一方で、ポンプレーザーに用いる10 Hzのパルスあたり7 Jの緑色YAGレーザーの開発、大型チタンサファイア結晶におけるレーザービームの歪み補償の技術、10 fs短パルスを1万倍以上に引き伸ばすパルス拡張器、拡張されたパルスを10億倍以上に増幅するための2台の増幅器、得られたレーザー光パルスを再度1万分の1程度に圧縮するためのパルス圧縮器などの技術開発を総合的に組み合わせた結果です。


参考文献

K. Yamakawa et al., Ultrahigh-Peak and High-Average Power Chirped-Pulse Amplification of Sub-20-fs Pulses with Ti: Sapphire Amplifiers, IEEE J. Sel. Top. Quantum Electron., 4(2), 385 (1998).

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たゆまざる探究の軌跡−研究活動と成果1999
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