4.5 干渉縞の新製法で理想的軟X線用回折格子
   


図4-10  新しい方法で作った回折格子表面の原子間力顕微鏡像

矩形型のみぞ形状と光の干渉縞を利用して製作したことから、ラミナ型ホログラフィック回折格子とよばれます。みぞ形状が非常にきれいな形をしているのがわかります。

 


図4-11  放射光軟X線を使って評価した新開発ラミナ型ホログラフィック回折格子(図中H)。比較のために市販の機械式によるもの(図中M)も示した。

回折格子に単一のエネルギーをもつ軟X線を入射させると、利用する回折光(1次光、m=1)のほかに、高次の回折光(m=2,3…)が反射されます。開発した回折格子は機械式のものに比べて測定した全エネルギー領域で高次光(H, m=2)の強度が小さく、かつフラットな特性をもっています。そして200 eV以上の高いエネルギー領域では機械式のものより高い回折効率を示すことがわかります。

 


 数10 eVから数keVのエネルギーをもつ軟X線は物質内の原子の配列や電子の状態を調べるのに大変役に立つ光です。そのうちエネルギーが数100 eVから3 keV位までの領域の光は、炭素や酸素、あるいはアルミニウムやシリコンなど身近で重要な物質を調べるのに特に適しています。最近は放射光やレーザープラズマなどのよい軟X線光源が普及してきましたが、これらの光源から数keV領域の光をエネルギー別に効率良く取り出す分光器にはよいものがありませんでした。
 原研では軟X線領域で効率が良く、エネルギー分解能のよい回折格子と呼ばれる分光器の開発を進めています。回折格子はガラスなどの上に機械的に溝を刻んだり、光の干渉縞を利用したりして作りますが、分光した軟X線が平面上に像を結ぶ平面結像型回折格子は従来の干渉縞を使う方法では作れませんでした。私たちは適切な干渉縞を作る新しい方法を開発し、新方式による回折格子を作りました(図4-10)。市販の機械式の回折格子と比べてエネルギーの高い領域で効率が非常に高いことが実証されました(図4-11)。開発した方法は数keV領域の分光器への適用が比較的簡単なので、この方法で作る回折格子が重要な物質の研究の進展に大きな寄与をすることが期待されています。


参考文献

M. Koike et al., Design of Holographic Gratings Recorded with Aspheric Wave-Front Recording Optics for Soft X-ray Flat-Field Spectrographs, J. Electron Spectrosc. Relat. Phenom.,101-103, 913 (1999).

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たゆまざる探究の軌跡−研究活動と成果1999
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