4.6 ランタノイドなど重元素を含む物質の局所構造研究の途を拓く
   ―SPring-8による高エネルギー EXAFS―
   


図4-12  X線により励起され物質中を伝播する光電子

入射X線により原子の内殻から光電子が励起されます。周囲の原子によって散乱される光電子との干渉でEXAFSが生じます。干渉が起きるためには光電子が行き来する間、吸収原子の内殻ホールが励起され続けていなければなりません。重元素は多くの電子を有しているため内殻ホールを埋める確率が高くなり、光電子の干渉が起こりにくくなります(ボケ効果)。

 


図4-13  白金箔のPt K吸収端のX線吸収スペクトル

78.4 keVで白金のK殻電子を励起するために吸収係数が大きくなっています。破線枠内の振動部分を抽出したものがEXAFS関数です。

 


図4-14  EXAFS関数のフーリエ変換によって求められた白金原子の周りの局所構造

図中のピークは r = 2.77 Å距離に一番近い、白金原子が存在することを示しています。

 


 大型放射光施設SPring-8の偏向電磁石からの光は100 keVもの高いエネルギーでも強度が大きいため、ほとんど全ての重元素のK吸収端近傍のX線吸収スペクトルを測定することが可能となりました。吸収端エネルギー直上でのX線吸収スペクトルの微細構造はEXAFS(Extended X-ray Absorption Fine Structure)と呼ばれ、これを解析することによりX線吸収原子の周りの局所構造(X線吸収原子の周りの近接原子の個数と距離など)を求めることができます。
 今までは、ランタノイドなどの重元素の場合、より低いエネルギーであるL吸収端でのEXAFS測定をしなければなりませんでしたが、K吸収端ではさまざまな利点が多く、これまで以上に局所構造決定の精密化が可能です。
 従来より高いエネルギー領域ではX線吸収原子の内殻ホールの励起寿命が短くなるために、EXAFS信号が観測されにくくなると予想されていました(図4-12)。本研究では、他に先駆けて高エネルギー領域でのEXAFS測定に成功しました。図4-13はランタノイドよりさらに高エネルギーである、白金箔(0.1 mm厚)のPt K吸収端(78.4 keV)近傍のスペクトルで、今のところ世界最高エネルギーでのEXAFSスペクトルです。また図4-14にはフーリエ変換で得られた白金原子の周りの局所構造を示しています。今後は多様な物性を示す各種ランタノイド化合物などの、より精密な局所構造解析がなされることが期待されます。


参考文献

Y. Nishihata et al., EXAFS in the High-Energy Region, J. Synchrotron Rad., 5, 1007 (1998).

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たゆまざる探究の軌跡−研究活動と成果1999
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