4.7 第三世代放射光だから見える、物質中特定元素の運動
   


図4-15  特定元素の核共鳴励起と非弾性核共鳴散乱スペクトル

光子は物質中で格子振動等の影響を受け、エネルギーがわずかに変化することが知られています。このため、放射光を特定元素の核励起エネルギー近傍でエネルギーを変化させながら試料に入射して非弾性核共鳴散乱線の強度を測定すると、核共鳴元素のフォノン(格子振動を量子化したエネルギー量子)の生成、消滅に対応して強度ピークや線幅広がりが生じます。
《非(準)弾性核共鳴散乱》 このスペクトルから物質中の特定元素のみの格子振動状態がわかります。

 


図4-16  FeCl3-GICの非弾性核共鳴散乱スペクトル

放射光をグラファイト層に垂直に入射したとき、エネルギーの高いモード(約10 meV)が多く散乱に寄与していることがわかります。これはFe原子が垂直方向に動きにくい(硬い)ことを示しています。

 


 物質の格子振動や電子−格子間の相互作用に関する知見を得ることは、構造相転移や超伝導等の現象を理解する上で極めて重要です。私たちは、第三世代放射光で初めて可能になる核共鳴散乱現象を利用し、物質中の特定元素の格子振動や拡散運動に関する知見を得るための研究を行っています。核共鳴現象を利用して非弾性核共鳴散乱スペクトル測定を行うと、試料中の共鳴元素以外は励起されないため、特定元素のみの振動状態を狙い撃ちして取り出すことが可能になります(図4-15)。一例として、図4-16にグラファイト層間化合物(GIC)中の鉄元素の挙動を調べるため、放射光をグラファイト層に垂直、平行方向から入射して測定された非弾性核共鳴散乱スペクトルを示します。この実験からグラファイト層間で、鉄元素の振動状態は層に垂直な方向には硬く、層に平行な方向には柔らかいことがわかりました。


参考文献

S. Kitao et al., Inelastic Nuclear Resonant Scattering of FeCl3-Graphite Intercalation Compounds, Jpn. J. Appl. Phys., 38 (1), 535 (1999).

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たゆまざる探究の軌跡−研究活動と成果1999
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