6.4 放射線や高温の過酷な環境で働く半導体メモリーを目指して
   


図6-8  炭化ケイ素単結晶の化学気相成長装置

炭化ケイ素単結晶の原料となるシランガスとプロパンガスを水素ガスで薄めて、石英製反応炉の内部に導きます。反応炉は減圧(1.3×104 Pa)に保たれ、回りの高周波コイルによって誘導加熱されたグラファイト上に置かれた1,300℃のシリコン基板に向けて、原料ガスが噴射されるようになっています。勢いよく噴射された原料ガスはシリコン基板表面で加熱され化学反応を起こし、立方晶炭化ケイ素単結晶へと変化します。

 


図6-9  作製した立方晶炭化ケイ素単結晶ウエハ

7.5 cm径のシリコン基盤上全面に14 μm厚の立方晶炭化ケイ素単結晶が成長しています。単結晶表面は鏡面のようで、厚みが薄いので同心円状の光の干渉縞が見えます。

 


図6-10  立方晶炭化ケイ素単結晶表面の平滑さ

単結晶薄膜を半導体材料として使用する場合、結晶に存在する欠陥、また、欠陥によって生じる表面の凹凸や亀裂があると材料として使うことはできません。原子の間に働く力を用いて炭化ケイ素薄膜の表面を調べたところ、小さな凹凸が見つかりました。しかし、この凹凸は原子が1個から2個程度の極めて小さいものであり、メモリーなどの素子を造るための加工には問題となりません。

 


 人工衛星用の新しい太陽電池や半導体メモリー素子材料として、シリコンに比べ耐放射線性が高く、より高温で使用できる炭化ケイ素単結晶の研究が行われています。しかし、炭化ケイ素はシリコンと比較して共有結合性が強く、また、いろいろな結晶形態があるので単一結晶構造で欠陥の少ない大きな単結晶を作製することが極めて難しい材料でした。
 原研では半導体材料として使用できるほどの大面積・高品質の立方晶炭化ケイ素単結晶(3C-SiC)薄膜をシリコン基板上に作製することに成功しました。3C-SiC単結晶は原料であるシランガス(SiH4)とプロパンガス(C3H8)を水素ガス(H2)と混合して、1,300℃に加熱したシリコン基板表面に吹きつけ、化学気相法(図6-8)で単結晶を成長させます。原研では原料ガスや水素の混合比、原料ガスのシリコン基板に対する流速、シリコン基板温度をいろいろ変化させて研究を進めた結果、従来とはかなり異なった条件、すなわち水素ガスの割合を大幅に少なくした原料ガスを用い、ガス流速を速くしてシリコン基板上に吹きつけることによって、これまで困難とされていた大面積・高品質の単結晶薄膜(図6-9)を再現性よく成長させる方法を見いだしました。これは、原料ガス中のシラン分子が熱分解する前にシリコン基板表面に到達して分解・反応することで、欠陥の少ない表面の平滑な炭化ケイ素単結晶薄膜が生成すると考えられます(図6-10)。この単結晶とイオン注入技術や酸化膜作製技術を組み合わせて、原子力や宇宙のような過酷な環境で使用される半導体集積回路の実現を目指しています。


参考文献

M. Yoshikawa et al., Growth of 3C-SiC by Low Pressure Chemical Vapor Deposition with Vertical Reactor, Thin Solid Films (1999) 掲載予定.

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たゆまざる探究の軌跡−研究活動と成果1999
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