6.5 過酷な環境でも使える高分子材料
   ―従来の400倍以上の耐放射線性高分子―
   


図6-11  芳香族系高分子材料の耐放射線性(室温、γ線照射)

力学特性である伸びが初期値の半分になる線量で評価した高分子材料の耐放射線性です。高分子の主鎖中に芳香環が連なった構造を持つ芳香族系高分子材料は、単純な構造のポリエチレンに比べ著しく高い耐放射線性を示します。また、空気中照射では有機高分子は酸化反応による主鎖切断反応を起こすので、真空中より1/5〜1/10程度少ない線量で劣化します。すなわち、高分子材料では空気中照射の方が真空中照射より過酷な環境であることがわかります。

 


図6-12  高い放射線環境下で働く遠隔保守用ロボット部品の開発

軽量で電気絶縁性の優れた芳香族系高分子材料で造られた高耐放射線性電気部品の例。窒素ガス中、250℃、100 MGyのγ線照射でも十分に使用可能です。

 


 プラスチックやゴムなどの高分子材料は電気絶縁性にすぐれ、柔軟性に富み、軽量、繊維にすると高強度であり、耐腐食性があるなどの優れた特長があり、私たちの日常においても広く利用されています。しかし、高分子は放射線や熱に弱いので、このような環境下での使用は限られていました。
 一方、高分子材料の特長を生かしつつ、放射線量の高い環境で使用したいという要求があります。これは核融合炉用超伝導磁石絶縁材料、核融合炉や再処理施設の保守・点検用ロボットの電気機器・部品、人工衛星の構造材や太陽電池パドルです。これらは10〜100 MGyの放射線照射と真空または窒素ガス中、温度250℃から−269℃の環境で使用されます。
 多くの高分子材料の照射実験から、芳香族系高分子は主鎖に存在する芳香環によって、分子構造が剛直で配向しており、また放射線による劣化反応を起こしにくいことが分かりました。ポリイミド、液晶ポリマー、ポリビフェニルエーテルは真空または窒素ガス中では200 MGyから400 MGyの高線量照射によっても劣化が少ない(図6-11)。これは、一般的な電線絶縁材料であるポリエチレンの200倍から400倍の耐放射線性です。電気絶縁抵抗や絶縁破壊電圧の値は照射によってほとんど変化しません。核融合炉ロボット用として開発した芳香族高分子を絶縁体とした同軸ケーブルやコネクタは窒素中、250℃でγ線100 MGy照射後も強度や可撓性があり、電気特性も十分に使用可能であることが明かとなりました(図6-12)。


参考文献

森田洋右他、高分子材料と放射線極限環境、原子力eye, 44 (5), 40 (1998).

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たゆまざる探究の軌跡−研究活動と成果1999
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