6.6 軽くて強いフッ素樹脂に耐放射線性を与える架橋技術
   


図6-13  放射線で架橋したPTFEの耐放射線性

架橋していない通常のPTFEは室温、空気中で放射線を照射すると5 kGy程度の線量で、引張り伸びや強度などの力学特性が急激に低下し、使用不能となります。一方、架橋したPTFEは400〜600 kGyの放射線照射でも、伸びや強度は大きな値を示し、使用可能です。架橋することによって、PTFEは100倍以上も耐放射線性が向上したことになります。

 


図6-14  架橋PTFEを用いることによる複合材の特性向上

架橋していないPTFEを用いた複合材に比べ、架橋PTFEを用いた複合材の強度などの力学特性は大きく向上します。また、図6-13に示したように架橋PTFEを用いた複合材の耐放射線性は高くなります。
 PTFE/ガラス繊維複合材は20重量%のガラス繊維が、PTFE/炭素繊維複合材は10重量%の炭素繊維が入っています。

 


 ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)は耐熱性、耐薬品性などに優れたフッ素樹脂であり、きわめて有用な工業用高分子材料です。しかし、放射線照射すると分子鎖が切断して、わずかな放射線量で劣化し、滅菌など医療分野や原子力や宇宙用材料としての使用はきわめて限られたものでした。
 原研では、従来、放射線で架橋(橋かけ)することは不可能と考えられていたPTFEを融点(327℃)の直上の高温で、かつ酸素のない状態で放射線照射することによって、分子鎖間に架橋を起こすことができることを明らかにしました。この架橋されたPTFEは優れた強靭性や耐クリープ性、また、優れた耐放射線性を示すことが明らかにされました(図6-13)。
 高分子材料は、高強度な繊維で補強する複合材の技術によって、軽くて強度のある構造材料として航空機などに利用されています。PTFEについても繊維との複合化が研究されましたが、PTFEとガラス繊維や炭素繊維との接着性がないために複合材の降伏点強度は通常のPTFEの約半分に低下してしまいます。この複合材に架橋PTFEを用いると強度はPTFEを用いた場合よりも大きくなり、また、弾性率が4倍以上となるなど高い機械的強度(図6-14)と高い耐放射線性を両立させることができました。架橋PTFEでは結晶が消失して樹脂が均一となり、強化材である繊維との密着性が良くなるためです。
 この技術は、放射線環境でPTFEが使用できる途を拓いたことになり、特に軽さと高強度が要求される人工衛星など宇宙用材料として期待されています。


参考文献

大島明博他、短繊維を充填したポリテトラフルオロエチレンの放射線架橋、JAERI-Tech 99-012 (1999).

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たゆまざる探究の軌跡−研究活動と成果1999
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