8.2 原子炉内情報を光ファイバで探る
   ―運転中の炉内目視も夢ではない―
   


図8-3  耐放射線性光ファイバを原子炉の炉心に挿入し出力と温度を測定した例

(上) 炉心内に挿入した光ファイバ自身の量子的効果による発光(波長:450 nm)と原子炉出力の関係。中性子束密度1018 n/m2・s、γ線レベル103 Gy/s以上の強力な放射線場で利用でき、それぞれ1024n/m2,1010Gy以上の寿命を有します。
(下)原子炉内で照射中の試料は、強力なγ線によって加熱され数100℃まで上昇します。試料から放出される熱放射光という赤外の光を利用し、γ線の強度や原子炉の出力を測ることができます。

 


図8-4  耐放射線性光ファイバ利用による新しい原子炉計測システムの概念図

原子炉の出力や温度、圧力、放射線レベル、機器配管の歪みなど運転中の原子炉の諸情報と健全性を、数本の光ファイバで同時に、かつ分布計測する新しい計測システムの開発を行っています。光ファイバ自身の持つ量子的効果を利用するもので、従来の膨大なシステムを大幅に削減できます。

 


 光ファイバの耐放射線性を向上させ、今まで不可能とされた原子炉内での利用が可能になりました。従来光ファイバを放射線下で使用すると、着色により光の吸収が生じ透過性を悪化させるため、利用が制限されていました。これは、光ファイバの素材であるシリカ(SiO2)ガラス内の格子欠陥が、放射線により生じた電子やホールを捕捉しカラーセンターを形成するためで、欠陥を抑制することが重要な課題でした。
 私たちは、放射線による欠陥生成及び、製造過程における欠陥生成を抑制するためシリカにフッ素等を添加する方法を開発し、中性子束1024 n/m2・s、温度800℃以上に耐える光ファイバを実現させました。図8-3に示すように、光ファイバ自身の量子効果等を利用して、原子炉出力や照射試料の温度測定に成功し、炉内情報を探る新しい方法として注目されています。
 この光ファイバを利用した新しい原子炉計測システムの概念を図8-4に示します。原子炉の出力や温度、機器配管の健全性を、わずか数本の光ファイバで同時計測するシステムを構築することにより、膨大な量のセンサを大幅に削減することが可能となります。また、耐放射線性の向上を図ることにより、運転中の炉内を直接目視することも夢でなくなります。現在、HTTRを利用した炉内目視計画を進めています。


参考文献

T. Kakuta et al., Application of Optical Fibers to Instrumentation System in Advanced Nuclear Power Reactors, ICONE-7128: Proc. 7th Int. Conf. on Nuclear Engineering, Apr. 19-23, Tokyo, Japan (1999).

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たゆまざる探究の軌跡−研究活動と成果1999
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