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2 地層処分技術に関する研究開発

2-1 地層処分の技術と信頼を支える研究開発

図2-1 高レベル放射性廃棄物地層処分計画の進展
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図2-1 高レベル放射性廃棄物地層処分計画の進展

 

図2-2 地層処分技術に関する研究開発の体制
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図2-2 地層処分技術に関する研究開発の体制


原子力発電をすると、高レベル放射性廃棄物−いわゆる「原発のゴミ」−が発生します。我が国では、原子力発電で使い終わった「使用済燃料」は、そのまま処分せずに、燃料として再生できるウランやプルトニウムを回収し、その後に残った廃液を、ガラス原料に混ぜて溶融・固化します。こうしてできたガラス固化体が、高レベル放射性廃棄物となります。高レベル放射性廃棄物は、発生した直後の放射能レベルが高く、その後も長く放射能が持続する特徴があります。そのため、何万年という超長期にわたって人間の生活環境から隔離しておくという対策が必要になります。その方法として、かつては海洋底や南極の氷の下、更には宇宙への処分なども検討されましたが、いまでは深地層への埋設処分(地層処分)が最も現実的な方法と考えられています。我が国では、ガラス固化体を金属製の容器(オーバーパック)に封入した上で、地下300m以深の安定な場所の岩盤内に粘土(緩衝材)で包み込んで埋設することを考えています(図2-1)。大地が育んだウランを採掘して原子力発電に利用し、最後に残った高レベル放射性廃棄物を再び深地層に還す、これが地層処分です。

この地層処分を安全確実に行うためには、様々な観点からの研究開発が必要です。例えば、何万年もの間には、オーバーパックが腐食して孔が開き、ガラス固化体と地下水が接触することも考えられます。これによって、放射性物質が地下水中に溶け出し、人間の生活環境に接近してくることも心配しておく必要があります。そのため、地層処分の研究開発では、地層処分の舞台となる深地層の環境を科学的にしっかりと理解するための研究(深地層の科学的研究)、ガラス固化体やオーバーパック、緩衝材などの人工材料や処分場の建設技術などに関する研究(地層処分の工学技術に関する研究)、放射性物質の長期的な挙動や人間への影響などを評価し安全性を確認するための研究(性能評価研究)を進めています。

我が国で地層処分の研究開発が始まったのは1970年代後半で、原子力機構あるいは、その前身であるサイクル機構や動燃事業団が中心となって、既に30年以上にわたって基盤的な研究開発を進めています。原子力機構(当時、サイクル機構)は、1999年11月に、それまでの研究開発成果を取りまとめ(「第2次取りまとめ」)、国に報告しました。「第2次取りまとめ」は、研究成果に基づく技術的な知見や根拠を積み重ねることによって、我が国において安全な地層処分が実現できる見通しを提示したもので、国の評価でも技術的信頼性が示されていることが確認されました。このような研究開発の進展を技術的な拠り所として、2000年5月に地層処分事業の実施の枠組みを定めた法律が成立し、同年10月にはこの法律に基づき、事業の実施主体である原子力発電環境整備機構が設立されました。また一方で、安全規制に関する基本的な考え方などの審議も進み、我が国の地層処分計画は事業段階へと踏み出しました(図2-1)。

地層処分の事業は、法律に基づいて、概要調査地区の選定、精密調査地区の選定、最終処分施設建設地の選定と3段階のサイト選定プロセスを経て、2035年前後からの操業開始を目指しており、事業の進展と並行し規制に関する法制度や指針などが整備されていく計画です。これらの計画に先行して基盤的な研究開発を着実に進めることにより、処分事業や安全規制を技術的に支え、また国民の理解促進を図っていくことが、私たちの役割です。

これまでの研究によれば、深層の地下水は一般に酸素を含まない強い還元状態にあり、ほとんど動かないため、物質を溶かし運搬する能力が低いことが分かっています。また、そういった深地層の一般的な特性を踏まえて、合理的に処分場や人工バリアを建設・施工でき、それらの条件を考慮して処分場の長期的な安全性をモデルやデータを用いたシミュレーション技術により予測評価できるといった見通しが得られています。もちろん、実際に地層処分を事業として進めていくためには、一般的な見通しだけでは困ります。その場所のデータに基づいて、技術的な評価が十分になされなくてはなりません。そのためには、調査に使う装置や評価するためのモデル、人工バリアや処分場の工学技術、安全評価の手法など、技術の信頼性を高め、実証していくことが大事です。

現在、私たちは、深地層に関する総合的な研究の場として2つの深地層の研究施設計画を進めています。花崗岩を対象とした岐阜県の瑞浪超深地層研究所と、堆積岩を対象とした北海道の幌延深地層研究所です(図2-2)。そこでは、実際に地下数百mの深さに坑道を掘削して、地下深部の岩盤や地下水を総合的に研究していく計画です。まず、地上からの調査によって、地下の様子や坑道を掘った際の影響を予測します。つぎに、坑道を掘って地上からの予測結果を確かめながら、坑道周辺の状況を調べていきます。また、坑道の中で様々な試験を行います。研究を段階的に進め、深地層についての理解を深めながら、これを体系的に調査するための技術を整備していくのです。

一方、茨城県の東海村では、地上の実験施設を活用して、人工バリアの長期的な健全性や放射性物質の溶解・移行などに関するデータの充実とモデルの高度化を進めています。また、深地層の研究施設で得られるデータを用いて、地層処分システムの設計や安全評価のための手法の適用性を確認します。

地層処分は今後百年以上にわたる事業であり、その進展を支えていくためには、地層処分の安全確保にかかわる様々な論拠や科学的知見などを知識ベースとして体系的に管理し、適切に伝達・継承していくことが重要です。私たちは、そのための知識管理システムの開発にも着手しました。当面は、2010年頃を目途とした精密調査地区の選定に照準を合わせ、実施主体による精密調査や国による安全審査基本指針の基盤となる技術の確立と知識ベースの整備を目指して研究開発を進めていきます。

2005年7月には、原子力機構及び資源エネルギー庁が実施している基盤研究開発を、より効果的・効率的に進めるための枠組みとして、「地層処分基盤研究開発調整会議」が設置されました。その中で、原子力機構が中心となり、今後5年程度(2010年頃まで)を俯瞰した国の基盤研究開発全体の実施計画を策定しました。これにより、精密調査地区の選定に向けて、原子力機構を中心とした研究開発機関の役割分担と連携・協力を更に強化し、成果を知識ベースとして集約していくための枠組みが整いました。