図6-2 核反応で放出される粒子の分布図
図6-3 250Cmのγ線エネルギースペクトル
原子力で利用されるウランやプルトニウムなどの原子核は、回転楕円体に変形していることが知られています。このような変形した原子核の中にも、球形の原子核に見られるような閉殻構造が出現します。どの原子核が閉殻になるかは、陽子と中性子からなる量子多体系としての原子核を研究する上で最も基本的な問題で、原子核の安定性を解く鍵となります。
超ウラン元素で、しかも中性子が過剰な原子核の構造を調べる手だては、これまでほとんどありませんでした。私たちはタンデム加速器施設の18Oビームを用いて、18O原子核中の2つの中性子を248Cm標的に移行させる核反応により、中性子過剰の250Cmを生成しました。核反応直後の250Cmは励起された状態あり、γ線を放出しながら基底状態に遷移します。これらのγ線を測定することにより、250Cmの変形状態を調べることができます。
実験では、核反応で生じる膨大な核種の中から250Cmのγ線だけを選別することが必要になります。そのために、核反応で放出される粒子を検出するための高分解能な透過型Si検出器を開発しました。放出粒子がSi検出器を通過するときのエネルギー損失は、入射エネルギーに逆比例し、粒子の原子番号の自乗と質量数とに比例します。そこで、横軸に入射エネルギー、縦軸に透過型Si検出器を通過する時のエネルギー損失をとって、放出粒子の分布図(図6-2)を作りますと、粒子の原子番号と質量数ごとに帯状の分布が観測されます。16O粒子が放出された時には、残留核として250Cmが生成されます。さらに16O粒子の運動エネルギーを選択することにより、250Cmの励起エネルギーを中性子分離エネルギー以下に抑えることができます。図6-2の四角で示した部分が、この領域に該当します。図6-3は、この領域の16O粒子と同時測定したγ線のエネルギースペクトルで、250Cmの励起状態から遷移するγ線です。回転状態に特有のエネルギー間隔の等しいγ線が12+状態まで観測されました。250Cmは、高回転状態のγ線が観測された原子核としては、これまでに最も中性子数の大きな原子核です。
回転状態から放出されるγ線のエネルギー間隔から、原子核の慣性モーメントを求めることができます。変形した原子核では、表面の核子が対になり超流動的な状態を構成するために、これらの核子対は慣性モーメントに寄与しません。閉殻をもつ変形した原子核では、この核子対を作る力が弱くなるために慣性モーメントが大きくなります。今回観測した中性子数154の250Cmの慣性モーメントは、中性子数152の248Cmよりもかなり小さくなっていることが分かりました。これは、中性子数152が閉殻を形成していることを意味します。今後さらに、陽子数の違いにより中性子数152の閉殻がどのように変化するかを調べることにより、殻構造が形成される機構を解き明かしていきます。