図6-5 257Noの合成とα‐γ同時計数測
図6-6 257Noのγ線スペクトル
図6-7 257Noと娘核253Fmの量子状態
陽子の数が100個を超えるような非常に重い原子核のことを超重核といいます。超重核は、多数の陽子間の電気的な反発力のため非常に不安定で、原子核の殻構造によって辛うじて存在を保っています。どれほど重い原子核まで安定に存在し得るか、どの程度安定であるかは、原子核の殻構造と密接に関係しています。
超重核の研究はこれまで、超重核を人工的に合成しその存在を確認することが第一の目的でした。一方で、超重核の励起状態を詳しく調べることができれば、超重核の殻構造を直接的に明らかにすることができます。私たちは、α‐γ同時計数法を用いて102番元素ノーベリウム(No)の同位体257Noのα崩壊を精密に測定し、超重核の励起状態や基底状態の構造を詳しく調べることに初めて成功しました。
257Noは、原子力機構タンデム加速器を用いてキュリウム248(248Cm)標的に炭素13(13C)ビームを照射することで合成し、半減期25秒でα崩壊する257Noのα線とγ線を高い効率で測定しました(図6-5)。これまでの超重核研究では、数個から100個程度のα線を検出するのが精一杯でしたが、今回私たちは約5000個の257Noのα線を検出し、同時に放出されるγ線を観測しました。その結果、図6-6に見られるような4本のγ線を初めて観測し、257Noの基底状態と娘核253Fmの励起状態のエネルギー、スピン・パリティを初めて実験的に特定することに成功しました(図6-7)。
このように重い原子核のγ線測定はこれまで例がなく、スピン・パリティを実験的に特定したのも世界で初めてです。この結果、257Noの基底状態はこれまでの予想とは異なる量子状態を取ることが明らかとなりました。量子状態を特定することで理論と実験との比較検討が初めて可能になり、超重核の殻構造の解明に向けて大きく前進しました。