7-9 高温ガス炉により製造された水素中に混入するトリチウムの抑制へむけて

−実炉における水素透過係数を初めて取得−

図7-22 高温ガス炉HTTRによる水素製造(HTTR-ISシステム)

図7-22 高温ガス炉HTTRによる水素製造(HTTR-ISシステム)

HTTRに非原子力級化したISプロセスを接続するHTTR-ISシステムによる原子力水素製造の実証試験を計画しています。非原子力級化の課題のひとつが原子炉で発生する水素同位体トリチウムの製品水素中への混入抑制です。

図7-23 ハステロイXRの水素透過係数

図7-23 ハステロイXRの水素透過係数

実炉で初めて水素透過係数を取得しました。HTTRデータを用いた保守的、即ち透過量が多くなる評価の結果(青線)は清浄金属面の過去の実験にほぼ一致し、より現実的な評価(赤線)では透過量が減少しました。酸化皮膜ありの過去の実験で透過量が減少したことから、中間熱交換器に酸化皮膜の形成が示唆されました。

HTTRに非原子力級化した熱化学法ISプロセスを接続する原子力水素製造HTTR-ISシステム実証試験を計画しています(図7-22)。水素製造装置を非原子力級化するための課題のひとつが、原子炉で発生する水素同位体トリチウムの製品水素中への混入抑制です。

金属中を水素及びその同位体であるトリチウムが透過することはよく知られた現象であり、表面での吸着、脱離及び金属中の拡散挙動が支配的な現象であるとされています。また、トリチウムの拡散速度は水素の拡散速度の約1/√3であるため、トリチウム透過評価には水素透過を評価すればよいといえます。これまでHTTRの中間熱交換器(IHX)伝熱管に使用されている高温材料ハステロイXRについて実験室において水素透過試験を行ってきました。その中で酸化皮膜が透過抑制に効果的に働くことが示されています。一方、商用高温ガス炉により製造された製品水素を広く一般的に使用する観点からは、製品水素へのトリチウム移行量の低減に、純化設備によるトリチウム除去のみに期待すると大規模な設備が必要となるため、IHX伝熱管のコーティングや酸化皮膜が必要不可欠であるとされ、特に長期的には酸化皮膜の効果はコーティング効果を上回るとされています。原子力水素研究の世界的な広まりの中、実炉における水素透過を評価した例はなく、また、実炉における酸化皮膜の効果も未知数でありました。

そこで今回、HTTR冷却材中の水素等不純物データを用いて、実炉における水素透過係数を初めて取得しました。

原子炉における試験データから工学的に有効な透過係数を求めるという課題を以下のように克服しました。まず将来の安全評価を考慮し、透過量を保守的に、即ち透過量が多くなるように評価しました。このときのHTTRは初めての950 ℃運転であったため2次系に1次系より多くの水素が存在しており、2次系から1次系へ水素が透過していたといえます。そこで、純化設備により除去された1次系の水素が、全量2次系から透過してきた、即ち炉心での水素の発生はないと仮定した極めて保守的な評価を行いました(図7-23の青線)。評価の結果、707〜900 Kにおいて活性化エネルギーが65.8 kJ/mol、アレニウスプロットの切片より求められる頻度因子が7.8×10−9 m3(STP)/(m・s・Pa0.5)となり、清浄金属面による試験結果とほぼ一致しました。しかし実際には、炉心では熱及び放射線による水分解で水素が生成(H2O+C→H2+CO)されます。そこでより現実に近い評価として、炉心で上記化学式が平衡状態となっていることから、炉心での水素生成量が純化設備での水の除去量に等しいと考え透過量を評価したところ、透過量は減少しました(図7-23の赤線)。実験室における試験で酸化皮膜が透過量を下げる効果があることが示されているため、HTTRにおいてもIHX伝熱管表面に酸化皮膜が形成されていることが示唆されます。

今後は、運転期間中に酸化皮膜を適切に維持するための雰囲気制御法の確立を目指すと共に、本成果をHTTR-ISシステムの純化設備の設計に生かす計画です。