11-1 将来の核燃料サイクル施設の保障措置システムを設計する

-保障措置システムシミュレータの開発-

図11-3 保障措置システムシミュレータの全体構造
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図11-3 保障措置システムシミュレータの全体構造

将来の核燃料サイクル施設を設計する際には、工程の設計,装置の台数等の概念設計,核燃料物質の流れ等の工学設計を行います。このとき、「核物質計量管理コア」によるプルトニウムの測定精度の把握,「多変量・多スケールコア」による異常検知レベルの把握,「多目的関数最適化コア」による適切な計量管理方法の選択,また、「仮想設計コア」による装置の最適化配置等を、施設設計段階から調べることができます。

 

図11-4 異常信号検出

図11-4 異常信号検出

工程内のプロセス信号を監視することにより、異常信号を素早く効率的に見つける手法として、ウエーブレット展開(周波数−時間展開)を用いた方法を開発しました。ウエーブレットの持つ、時間及び周波数情報が、信号成分の分解に有効に作用します。

濃縮から再処理まで含めた一連の核燃料サイクル施設を保有している非核兵器国は我が国だけであり、これは、高度な計量管理・保障措置技術を用いてIAEAの保障措置をフルスコープで受けるとともに、原子力の平和利用と核不拡散を推進してきた努力の賜物です。原子力機構においては、世界的な原子力エネルギー復権の見えるなか、新たな核燃料サイクルシステムが研究されています。

使用済核燃料を再処理して取り出されたプルトニウムが核兵器に転用されていないことを確認する査察では、計量管理を正確かつ迅速に行う必要があります。従来、施設設計が完了し建設が開始される段階になってから、計量管理機器の検討を開始していましたが、国際的な保障措置強化の流れの中で、施設設計完了後に保障措置を検討することは、設計の手戻りや新たな保障措置機器設置等が義務付けられるため、開発コスト増加の一因となっていました。

こうした状況の中で、新たな核燃料サイクル施設に適用すべき先進的保障措置システムの検討が開始されました。これは過去の反省を踏まえ、施設設計段階でプロセスの計量管理特性を調べるとともに、国際的に標準となる保障措置アプローチを構築することにより、設計段階で保障措置システムを組み込むことを目指すものです。この作業に威力を発揮するのが「保障措置システムシミュレータ」であり、その全体構造を図11-3に示します。

施設のプロセス工程と各種装置配置・員数等が設計により決まると、これを受けて工程中の施設のプロセス工程と核物質の流れ及びこれに応じた計量測定をモデル化することができます。このとき、本シミュレータの「核物質計量管理コア」を用いることにより、施設の計量管理特性を計算し、予想される核物質の測定誤差等[在庫差(MUF)]を明らかにでき、計量方法の有効性の事前検討が可能となります。本コアは、10年以上前に当時の原研が開発したものを、入出力周りの環境を新たに作ることにより、シミュレーションコアとして開発整備したものです。

また、プロセス工程全体のシミュレーション結果に、異常信号を重畳し、ウエーブレット展開(ウエーブレット関数を用いた周波数−時間領域での固有関数展開手法)を利用した時間・周波数分解手法を適用しました。この結果、図11-4に示すように、プロセス信号の異常検出を効率的に実施することができ、施設運転時の信号監視方法の事前検討が可能となりました。このために用いるコアは、「多変量・多スケールコア」と称しており、2007年度に新たに開発した機能です。

今後、保障措置機器の最適化,バーチャルエンジニアリング等の機能を開発中で、多種類のコアから構成される保障措置システムシミュレータを用いて、今後の施設設計に反映する予定です。