高レベル放射性廃棄物の地層処分の技術基盤を整備するため、岐阜県瑞浪市にある瑞浪超深地層研究所において深地層の科学的研究を進めています。研究は地表からの調査研究により地下の様子を予測する段階を経て、その予測結果を確かめるため実際に坑道を掘削する段階に進んでいます。研究所の建設は、2002年7月8日に着工し本年で5周年を迎えました。これまでに2本の立坑を約200mまで掘削し、深度200mの水平坑道の掘削を行っています(図12-22)。
研究坑道の掘削では周辺環境への負荷の低減ととともに、湧水処理及び湧水抑制対策に関わるコストを最小限に抑えることが施工上の課題となっています。そこで湧水抑制対策の技術開発として立坑の既掘削部(深度約142〜146mの堆積岩部)を対象に試験的なポストグラウチング(既に掘削された岩盤からの湧水を抑制するためにセメントなどを岩盤中に注入する技術)を実施しました(図12-23)。今回実施した立坑部を対象としたポストグラウチングは、世界的にもまれな技術であり、今後の立坑掘削における湧水抑制対策として必要不可欠な技術開発の一つといえます。今回の試験施工では透水試験と湧水圧試験(回復法)を行い、ルジオン値(岩盤に0.98MPaの圧力で注水したときの試験区間1m当たりの1分間の注入量),透水係数(岩盤中の水の流れやすさを示す値で、単位断面積,単位時間当たりに流れる水の量),湧水圧並びに湧水量について、グラウチング前後とグラウト注入領域の内外で比較し、効果の評価を行いました。
その結果、グラウト注入前に比べて、注入後の注入範囲内ではルジオン値及び透水係数ともに1/5程度に低減し、湧水はほとんど認められないという結果が得られました(表12-1)。一方、注入範囲外では明らかに注入範囲内と比べて透水性の低減程度が低く、かつ湧水量が大幅に増加していることが分かりました。これらの結果より、今回実施した立坑を対象としたポストグラウチング技術の考え方や実施方法は注入範囲の透水性の低減という観点から、おおむね妥当であることが確認できました。
今後の研究坑道の掘削におけるグラウチングは、大量の湧水が予想される領域では掘削前に注入を行うプレグラウチングを基本として実施する予定です。しかしながら、掘削後においても顕著な湧水が継続する場合は、今回実施したポストグラウチング技術を適用しつつ、岩盤の性状等に合わせたグラウチング技術の高度化を行っていく予定です。これにより、周辺環境への負荷の低減に配慮しつつ、湧水処理及び湧水抑制対策にかかるコストの最適化を目指した研究所の建設を進めていく予定です。