図5-19 クリアランスレベル算出のための評価シナリオと被ばく経路
図5-20 評価パラメータのばらつきが最大線量に与える影響を把握するための解析結果例(234U)
原子炉施設の解体などに伴って発生する廃棄物の中には放射能レベルが極めて低いものが含まれます。それらを「放射性物質として扱う必要のない物」として放射性廃棄物と区分することをクリアランスといい、基準となる核種濃度レベルをクリアランスレベルと呼びます。我が国では、既に原子炉施設(軽水炉やガス炉等)に対し、半減期の短い放射性核種を対象としたクリアランスレベルが法制化されました。今後、ウラン廃棄物やTRU廃棄物と呼ばれる廃棄物に対するクリアランスレベル導出のための評価手法を整備する必要があります。これらの廃棄物は、半減期が極めて長く、崩壊連鎖を伴う放射性核種を有意に含むことが特徴です。
私たちは、原子炉施設を対象としたクリアランスレベル評価コード(PASCLR)をベースに、ウラン・TRU廃棄物の特徴を考慮したコードへの拡張を進めてきました。PASCLR第2版は、クリアランス後に産業廃棄物として地中に処分する場合(埋設処分シナリオ)と資源としてリサイクルする場合(再利用シナリオ)の両方について、被ばく経路をもれなく想定し被ばく線量評価を可能としました(図5-19)。また、時間が経過するとともに廃棄物に含まれる親核種から子孫核種が生成及び累積(ビルドアップ)することで、放射線の影響が長期にわたる可能性があることを考え、図5-19に示したすべての評価経路に対し、崩壊連鎖に伴う減衰/生成の現象をモデル化しました。特に、ウラン廃棄物では気体状の子孫核種であるラドンが含まれることが特徴であり、処分に伴う、屋外及び居住空間におけるラドンガスの吸入被ばくの評価体系を構築しました。
クリアランスレベル算出に使用する地下水流速などの評価パラメータの値は、測定データの誤差や処分の環境条件のばらつき等に応じてある分布を持ちます。ある一つの代表的な評価パラメータの組合せを考え決定論的解析により算出したクリアランスレベルに対し、評価パラメータのばらつきがクリアランスレベルに与える影響を、モンテカルロ法により評価することを可能としました(図5-20)。
現在、国際原子力機関(IAEA)等の国際的なクリアランスレベルとの整合性を図りつつ、本コードによるウラン・TRU廃棄物に対するクリアランスレベルの検討を進めており、本検討結果は今後の規制行政庁におけるウラン・TRU廃棄物に対するクリアランスレベル策定の際に役立てられます。
なお、本研究は、経済産業省原子力安全・保安院からの受託研究「放射性廃棄物処分の長期的評価手法の調査」の成果の一部です。