7-7 高温ガス炉の優れた安全特性を実証

−HTTRを用いた冷却材流量低下模擬試験−

図7-19 高温ガス炉の優れた安全性

図7-19 高温ガス炉の優れた安全性

高温ガス炉はセラミックと炭素で4重に被覆した燃料を用い、冷却材には高温においても化学変化がないヘリウムガスを採用し、熱容量の大きい黒鉛で炉心を構成することから、燃料の破損や炉心溶融に至る事故が起きる可能性は極めて低い原子炉ですが、冷却材流量が低下した場合の安全性の実証が残された課題の一つです。

 

図7-20 原子炉出力100%(30MW)での試験結果

図7-20 原子炉出力100%(30MW)での試験結果

この試験により、冷却材流量が1/3まで低下するような事象が生じても、原子炉は穏やかに安定な状態に落ち着くという優れた安全性が実証されました。

将来のエネルギー源の多様化とエネルギー安定供給、更には地球環境保全の観点から、高温の熱を発電のみならず水素製造,海水淡水化など様々な用途に利用する高温ガス炉技術の開発を、世界のトップランナーとして進めています。高温ガス炉は、セラミックと炭素で4重に被覆した耐久温度の極めて高い燃料を用いるため、核分裂生成物を高温まで有効に閉じ込めることができ、また、炉心を構成する構造物を黒鉛で製作することから、熱容量が大きく、急激な炉心の温度上昇が起こらず、更に、冷却材に用いるヘリウムガスは、温度が上昇しても相変化がなく、構造材と反応して腐食させたりしません。このため、高温ガス炉は、設計用基準地震動を上回る地震に対しても、燃料の大規模破損や炉心溶融に至る事故の起きる可能性が極めて低いという優れた安全性を持っています(図7-19)。950℃以上の高温の熱を発生させる次世代の原子炉システムの一つである高温ガス炉システムの開発では、この優れた安全性を実際の原子炉で実証することが世界的な課題でした。

世界で唯一950℃までの高温の熱を取り出せるHTTRは、次世代高温ガス炉に最も近い原子炉であり、世界の注目を集めながら安全性を実証する試験を行ってきました。安全性の実証の中でも冷却材の流量が低下する事象は、燃料や炉心の健全性維持に対して特に厳しい事象であるため、その試験成果が注目されていました。試験では、熱出力を30%(9MW)から段階的に上昇させながら冷却材流量が低下した場合の原子炉挙動を把握してきましたが、このたび100%の全出力(30MW)において冷却材流量を低下させる試験に世界で初めて成功しました。

試験では、3台のヘリウムガス循環機のうち、2台までを停止させて、冷却材流量を定格値の1/3まで低下させました。冷却材流量の低下により、炉心を冷却する能力が劣化するため、燃料及び黒鉛の温度が上昇します。このとき、原子炉が持つ固有の自己制御性により、核分裂反応が減少して原子炉出力は自然に低下して安定な状態に落ち着きます。これに伴い、原子炉の入口・出口の冷却材温度もわずかに変化しますが、ほぼ一定温度を維持しています。一方、安全解析用コードの改良も進めており、これまでのところ高温ガス炉の炉出力を8%以内という高い精度で予測できることを確認しました。この安全解析用コードによる燃料最高温度の評価では、冷却材流量の低下に伴って温度が急激に上昇することはなく、温度がわずかに上昇した後、流量低下前の温度に戻っています(図7-20)。このように、冷却材流量が低下しても原子炉は穏やかに安定な状態に落ち着くという、高温ガス炉の優れた安全性をHTTRを用いて実証しました。HTTRによる試験結果から、高温ガス炉では、冷却材流量が低下しても原子炉を自動的に緊急停止させる必要はないと考えています。今後、HTTRを用いて、更に厳しい事象である冷却材流量を完全に喪失させる試験を計画しています。本研究は、文部科学省からの受託研究「高温ガス炉固有の安全性の定量的実証」の成果です。