図11-3 レーザーイオン加速装置
図11-4 新原理によるイオン加速機構
図11-5 臨界密度プラズマ生成法
図11-6 イオン加速実験の結果
レーザーの強い光を薄い膜に集光すると、瞬間的に高密度のプラズマが発生して、高エネルギーのイオンが発生します。この現象を利用すると、従来の装置では数10mになるイオン加速器を、数m以下のコンパクトな装置(図11-3)にすることができます。私たちは、小型のがん治療用加速器を目指したイオン加速研究を行っています。
本研究では、レーザーのエネルギーをより効率的にイオンのエネルギーに変換するために、新しい原理に基づいたイオン加速法を、実験的に実証することに成功しました。ここでは、臨界密度プラズマという特殊なターゲットを用います。通常の固体ターゲットでは、レーザーのエネルギーの多くの部分がターゲットの表面で反射されるのに対して、臨界密度プラズマでは、レーザーは臨界密度プラズマの中へ侵入することができます(図11-4)。すると、レーザーのエネルギーは効率良く電子に変換され、強力な磁場が発生します。この磁場がイオン加速電場を保持し、効率的にイオンを加速することができます。臨界密度プラズマの生成法としては、レーザー主パルスの直前に、強度の低い自然放出光の増幅(Amplified Spontaneous Emission:ASE)を照射することで、固体ターゲットを臨界密度プラズマに変換しています(図11-5)。
実験の結果、臨界密度プラズマを用いることで、最大エネルギー3.8MeVの陽子線を加速することに成功しました。図11-6に示すのは、実験で得られた陽子線のエネルギースペクトルです。本実験では、1回のレーザー照射当たり、およそ100億個の陽子が加速されることが確認されました。今後は、イオン加速に効率的な実験パラメーターとして、レーザーのエネルギーやパルス時間幅、及びターゲットプラズマ密度分布の最適化を進め、より高いエネルギー,粒子数のイオンビームを発生することを目指して研究開発を進めます。
本研究は文部科学省科学技術振興調整費「『光医療産業バレー』拠点創出」の一環として実施されました。