3-1 ITERの長時間燃焼を確実に

−高閉じ込め・高圧力プラズマの長時間維持−

図3-2 回転方向の異なるプラズマにおける圧力分布の比較

図3-2 回転方向の異なるプラズマにおける圧力分布の比較

加熱用中性粒子ビームを運動量源としてトーラス方向のプラズマ回転を制御しました。プラズマ回転が正になると閉じ込め性能が改善し、赤線で示すようにプラズマ中心部のプラズマ圧力を高めることができました。

 

図3-3 長時間放電におけるプラズマ性能と持続時間

図3-3 長時間放電におけるプラズマ性能と持続時間

フェライト鋼によってプラズマを閉じ込めるトロイダル磁場の不均一性を減らし、プラズマ回転の制御性と中性粒子ビームの加熱効率が上がりました。その結果、ITER標準運転に必要な値を超える「規格化プラズマ圧力と閉じ込め改善度の積(エネルギー増倍率の指標)」を世界最長の28.6秒間維持することができました。矢印で示すように、JT-60が達成していたこれまでの世界記録である16.5秒から約1.7倍に伸ばしました。

ITERでは、エネルギー増倍率(核融合出力/外部加熱パワー)が10以上の高性能プラズマを長時間(400秒以上)維持することが主要な目標です。核融合出力はプラズマ圧力(温度×密度)の二乗に比例するので、その目標達成には、(1)プラズマ圧力を高め、核融合出力を増大すること(2)少ない加熱入力で高いプラズマ圧力が得られるようにエネルギーの閉じ込め性能を高くすることの二つを同時に満足する必要があります。なお、プラズマ圧力の指標として「規格化プラズマ圧力」、閉じ込め性能の指標として「閉じ込め改善度」が用いられます。エネルギー増倍率は「規格化プラズマ圧力と閉じ込め改善度の積」に比例するため、この値がエネルギー増倍率の指標として用いられています。

ITERでの長時間燃焼を確実にするため、「規格化プラズマ圧力と閉じ込め改善度の積」がITERで必要とされる値を持つプラズマを安定かつ定常に維持することを実証することが、炉心プラズマ研究開発における重要課題です。これに対して本研究では、加熱用中性粒子ビームの組合せによってトーラス方向のプラズマ回転を変えることができるJT-60を用いて、プラズマ中心部におけるトーラス方向の回転が正になると少ない加熱パワーでもプラズマ圧力を高くできる(閉じ込め性能が高くなる)ことを明らかにしました(図3-2)。またJT-60の真空容器内部に強磁性体であるフェライト鋼を設置し、(フェライト鋼が作り出す磁場によって)プラズマを閉じ込めている磁場の均一性を向上させました。その結果、加熱用中性粒子ビームがトロイダル磁場の不均一性によって損失することが低減され、プラズマの回転制御性と中性粒子ビームの加熱効率の両方を上げることができました。

これらの知見と装置の改良を基に、高いプラズマ圧力を保持しつつ閉じ込め性能も高くなるよう回転分布や周辺密度を制御し、高性能プラズマの長時間維持を実証しました(図3-3)。本研究により、ITERの標準運転に必要とされる値(1.8)を越える2.0の「規格化プラズマ圧力と閉じ込め改善度の積」を持つプラズマを安定に維持することができました。持続時間は世界最長の28.6秒まで伸長することができました。この時間はJT-60の加熱用中性粒子ビームの最大連続入射時間によって制限されており、長時間の加熱が可能なITERにおける長時間燃焼の実現性の見通しが確実なものになりました。

本研究「プラズマ回転制御によるトカマクプラズマの高性能化の研究」は、「平成20年度科学技術分野の文部科学大臣表彰」若手科学者賞を受賞しました。