3-9 燃料電池を使ってトリチウムを取り出す

−ブランケットスイープガスからのトリチウム回収技術−

図3-19 水素ポンプの原理(上)と試験管型のプロトン導電性セラミック膜を用いた水素ポンプの概略図(下)

図3-19 水素ポンプの原理(上)と試験管型のプロトン導電性セラミック膜を用いた水素ポンプの概略図(下)

 

図3-20 水素ポンプによる水蒸気の分解と水素の取り出し

図3-20 水素ポンプによる水蒸気の分解と水素の取り出し

水蒸気分圧2668Paのヘリウムを供給し、透過側の水素濃度を測定しました。

 

図3-21 水素が膜を通るときの動きやすさと水素濃度の関係

図3-21 水素が膜を通るときの動きやすさと水素濃度の関係

供給側、透過側ともに水素濃度を変化させました。

核融合炉は、重水素とトリチウムの核融合反応で発生するエネルギーを取り出すシステムです。燃料の重水素とトリチウムは水素の同位体で、重水素は海水から取り出すことができますが、トリチウムは天然にはほとんど存在しません。そこで核融合炉では、炉心の燃料プラズマをリチウムの化合物を入れたブランケットで覆い、リチウムと核融合中性子との核反応でトリチウムを製造します。ITERで、我が国はリチウムセラミックスを詰めたブランケットを試験する予定です。ブランケットで製造したトリチウムは、ヘリウムを主成分としたスイープガスを流して取り出し、回収システムでスイープガスから分離して燃料に利用します。核融合反応で消費する量以上のトリチウムを製造し回収しなければ、核融合炉はエネルギーシステムとして成立しません。

回収する方法は、金属の膜を透過させる方法,金属に吸収させる方法,吸着材に吸着させる方法などが考えられていますが、本格的な発電を目指したDEMO炉以降は、スイープガスの温度が高くなり流量も増えるので、効率的な回収方法の開発が必要です。そこで着目したのが水素ポンプです。水素ポンプは燃料電池の原理を逆利用するものです。水素イオン(プロトン)導電体の膜に電圧(電位差)を加えることで、プロトンだけを取り出せます。電位差もプロトンを移動させる力となるので、上り坂輸送が可能なことから「ポンプ」と呼びます。加える電圧によっては、水素の化合物から水素だけを抜き取ることも可能です(図3-19)。

プロトン導電体には、高温のガスを処理することを考えセラミックを選びました。燃料電池で主流の固体高分子と比較するとプロトンによる電流量(透過量)は小さいのですが、水蒸気から水素を取り出せることを原理実証しました(図3-20)。また、供給する水素の濃度がある程度まで高くなると取り出しやすさはあまり変わらなくなることが分かりました(図3-21)。
 原理的な見通しは得られたので、今後は水素の透過性能の向上、セラミックと金属の接合部分の強度、耐久性の向上といった実用化に向けた開発を行う予定です。