図14-29 青森研究開発センターに設置してある加速器質量分析装置(AMS)
表14-3 海水中の129Iの起源別割合
図14-30 海水中の129Iの鉛直分布
ヨウ素129(129I)は半減期1570万年の長寿命放射性核種です。129Iは天然に存在しますが、1950〜60年代に行われた大気核実験や核燃料再処理工場からも環境中に放出されます。したがって、ヨウ素の循環を考える上で、再処理工場は点源となり、物質循環研究に有益な情報を与えてくれると考えられます。一方、今までに環境試料中の129Iを高感度で測定できる分析手法はありませんでした。青森研究開発センターのむつ事務所に設置してある加速器質量分析装置(AMS,図14-29)を129I測定用に調整し、ヨウ素同位体比(129I/127I)で10−14レベルまで測定できる技術を確立し、海水試料にAMS法を適用しました。
津軽海峡の関根沖と富山湾における表面海水中の129I/127Iを測定したところ、天然レベルの50倍程度の値であることが分かりました。この増加分は過去の核実験と再処理工場からの放出に起因すると考え、起源別の割合を求めると、天然:核実験:再処理工場=2:10:88程度であることが分かりました(表14-3)。従来日本周辺における129Iの起源は天然及び核実験起源の二種類で説明できると考えられていましたが、本研究によって再処理工場からの寄与が大きな割合を占めていることが示唆されました。主要な再処理工場は英国,仏国,米国にあるので、再処理工場から大気中に放出された129Iが日本周辺に飛来したと考えられます。すなわち再処理工場から放出された129Iは全球に拡散すること、またヨウ素は大気の流れによって長距離に拡散する元素であることも分かりました。
同様に、海水中の129Iの鉛直方向の濃度分布を測定しました(図14-30)。富山湾における鉛直分布をメキシコ湾の鉛直分布と比べると水中における129Iの総量(図14-30において面積に相当)が約3倍になっていることが分かりました。これは日本海の表面海水が冬期に沈み込むこと、閉鎖的な海域であることによるものだと考えられます。
AMSを用いて、高感度で129Iを測定できる技術を開発したことにより、今まで測定することのできなかった海水中の129Iの測定に成功しました。この技術を応用することにより新しい物質循環の知見を得ることや129Iを追跡子として利用し海水循環の研究に役立てることができました。AMSは今後ますます環境研究などの分野で活躍が期待されます。