7-2 核変換研究用核反応断面積の高精度化に向けて

−放射化法による高速中性子捕獲断面積測定手法の開発−

図7-5 中性子束分布と237Npの中性子捕獲断面積

図7-5 中性子束分布と237Npの中性子捕獲断面積

 

図7-6 反応率の中性子エネルギー依存性とその積算値

図7-6 反応率の中性子エネルギー依存性とその積算値


核データの高精度化は、放射性廃棄物核種の核変換研究や革新的な原子力システムの開発にとって重要な課題のひとつです。とりわけ、核変換対象核種であるNp,Am,CmといったMA核種に対して、高い精度の核データが求められています。

図7-5は、237Npの中性子捕獲反応断面積が中性子のエネルギーに応じて変化する様子を示しています。米国と我が国の核データ評価値を比較すると、約100keV(105eV)以上の中性子エネルギー領域に大きな差が見えます。これは高速中性子領域の核データに大きな不確定さが残っていることを物語っています。

このような差異の生じる原因を明らかにし、正確な核データ値を得るには、異なる測定手法を用いた独立測定を行い、相互に比較することが有効です。これまで、高速中性子領域の中性子捕獲反応断面積測定には、1g程度のサンプルを用い、加速器で発生する中性子を利用した測定が行われてきました。私たちは東京大学と共同して、東京大学原子炉「弥生」の高速中性子を利用して、放射化法により中性子捕獲断面積を決定する手法の開発に取り組みました。

これまで熱中性子炉の中性子場を用いて熱中性子捕獲断面積を決定する手法はWestcottらにより確立されていますが、高速中性子場に適用することは困難でした。それは、高速炉の中性子エネルギースペクトル(図7-5の青線)と高速中性子領域の中性子捕獲断面積のエネルギー依存性には熱中性子場で開発された解析手法が適用できないからでした。

原子核が変換される反応率は、中性子捕獲断面積と中性子束の積で決まり、図7-6のように中性子エネルギーによって変化します。同図には、反応率を各中性子エネルギーまで積算した値も示しています。このような数値解析から、高速中性子場で照射した核反応の代表中性子エネルギーを定義し、そのエネルギー点での断面積導出が可能となりました。この手法により、237Npのサンプル量はわずか0.1mgと少量でしたが、5%の測定精度で237Npの高速中性子捕獲断面積が測定されました(図7-5)。

現在、J-PARCの大強度パルス中性子ビームを用いて、エネルギー依存性データの測定も始まろうとしています。これらの独立した核データ決定方法を相補的に適用することで、中性子核反応断面積の高精度化に期待がかかります。