図12-1 原子力研究を先導するための計算科学の役割とその成果
1980年代のスーパーコンピュータの出現を契機として、計算科学研究を支えるシミュレーション技術,計算科学基盤技術が急速に進展しました。その結果、計算科学研究が大きく発展し、従来の理論・実験に次いで、第三の研究手段として認識されるようになりました。
原子力の分野でも、実験や観測が困難な現象の解明や予測に、計算科学研究の成果が大きく貢献しつつあります。大規模かつ長期間を要する原子力研究開発の進展のために、今後も計算科学の更なる利用拡大が期待されています。
こうした状況の下、私たちは、原子力分野の膨大な計算需要にこたえ、様々な現象の解明を支援するために、図12-1に示すような「先端的シミュレーション技術の開発」「計算科学基盤技術の開発」「計算機の運用・保守」の三位一体の体制をとっています。そして、計算科学と理論・実験科学とを融合し、計算科学を活用した原子力研究を先導しています。
例えば、原子力の分野では、原子炉材料・核燃料の経年劣化、原子力施設の耐震性等を、理論・実験の両側面から検証し、現象を解析してきました。ここに計算科学を取り入れることで、コストや規模の問題から従来は困難であった評価・予測の実現が期待されます。
具体的な取組みとして、原子炉材料の経年劣化の解析では、原子炉の劣化予測に科学的根拠を与えるため、鉄鋼材料のき裂進展メカニズムを原子・電子のミクロレベルから連続体のマクロレベルまでの広範囲な手法を用いて研究を行っています。
原子力施設の耐震性の解析では、地震時における原子力施設全体の挙動解析、新型炉設計時の耐震強度解析などを実現するため、コンピュータの中に振動台を構築する研究、構築した振動台を用いた長時間シミュレーションを実現するための研究開発を進めています。
また、プラズマ安定性の実時間制御法開発を支援するために、計算機の新しい技術も積極的に取り入れ、それに適したプログラミング手法を開発しています。
私たちは、今後も先端的シミュレーション技術,計算科学基盤技術の開発に努め、原子力機構内外の機関との分野融合も推進することで、原子力研究の高度化を目指していきます。