12-1 原子力シミュレーションの長時間実行を可能へ

−大規模シミュレーションを容易に実行可能とする基盤技術を開発−

図12-2 原子力施設の耐震シミュレーション

図12-2 原子力施設の耐震シミュレーション

大洗研究開発センターで開発された高温工学試験研究炉(HTTR)を対象として、構成機器群を三つの主要機器(高温ガス炉(RPV),加圧水冷却器(PWAC),補助冷却器(AWAC))と三つの配管に分け、六つの部分のシミュレーションを同時並行的に実行します。所要時間は10日間です。同時並行実行により従来技術に比べ所要時間を約30%短縮しました。また制御を自動化することにより、機器や部品間の相互作用を考慮した原子力施設全体規模の地震応答解析の省力化を実現しました。

 

図12-3 FeのGBにSやPなどの不純物元素が粒界偏析した様子

図12-3 核融合統合シミュレーション

核融合研究開発部門で開発を進めているシミュレーションです。核融合反応の持続のため、核融合プラズマが不安定になりかけた場合には安定化させる必要があります。制御、安定化のシミュレーションの実行のタイミングは事前に予測できませんが、本技術では3台のスパコンを連携し、必要に応じて自動的に電磁波でプラズマの制御,安定化を行うプログラムを連携実行することで、数秒〜数10分に及ぶプラズマの詳細挙動及び安定制御の効果を数値的に調べることができるようになりました。

複雑な物理現象を取り扱う原子力シミュレーションには、スーパーコンピュータ(スパコン)を用いても困難なほど大規模な計算や膨大なデータを必要とするものが存在します。例えば原子力施設の地震時の構造健全性を詳細に評価するためには、1000万を超える部品から構成される原子力施設全体を取り扱う必要があります。個々の部品ごとに解析するプログラム(要素プログラム)を連携動作させることで初めて、従来の部品解析技術では困難な機器や部品間の相互作用に起因する局所的変形などの物理現象を再現することが可能になります。

このようなシミュレーションを実現するために、私たちは複数のスパコンを組み合わせてAEGISと呼ばれる仮想的な大規模スパコンを構築し、制御を自動化することで連携・統合プログラムを実行させる技術の研究開発に取り組んでいます。

AEGISを用いても計算に数週間を要する大規模連携・統合プログラムを実行するためには、状況に応じて要素プログラムの実行を継続する柔軟性が重要です。例えば、スパコンは多数の利用者により共同利用されているため、半日程度の決められた時間内でしかプログラムを実行できません。したがって、時間制限によりプログラムが終了したら、自動的に再実行する機能が必要です。また、メンテナンスや予期せぬ故障のためにスパコンが停止したり、利用負荷が高く実行待ちが必要だったりする場合には、実行対象をほかのスパコンに切り替える機能も必要です。私たちは、プログラムの途中終了や実行不能等を判断し、自動的に再実行する機能をAEGISに実装し、連携・統合プログラムの長時間実行に成功しました。

ここで二つの連携実行の例を示します。原子力施設の耐震シミュレーションは、施設を分割して地震時の挙動を同時並行的に計算し、その結果を統合して施設全体の挙動を解析します(図12-2)。一方、核融合統合シミュレーションは、プラズマが不安定になりかけた場合に安定化処理を行うため、プラズマの状態に応じて実行される要素プログラムが変化します(図12-3)。これらのプログラムを連携して長時間動かすためには、従来技術では要素プログラムの大幅な修正が必要でした。本技術では合計数10万行の要素プログラムに対し、100行程度の修正と設定を行うのみで実現できました。今回の成果により、統合プログラムの実行時間短縮,実行の省力化のみならず開発期間の短縮に寄与できることが期待できます。