図12-4 プラズマ安定制御の概念図
図12-5 Cellクラスタの構造と階層型並列
我が国を含めた7カ国で推進している国際熱核融合実験炉(ITER)などで採用されているトカマク型核融合装置では、炉心プラズマの不安定性による運転性能の悪化を防止する必要があります。不安定化を防ぐための有力な方法として、センサにより不安定性の兆候をモニタし、外部コイル磁場を用いて制御する方法が検討されています(図12-4)。しかし、兆候信号から不安定性の抑制までに許容される時間はITERのような大型核融合炉でも5秒程度と短いため、現時点では高度の計算を用いた制御は困難な状況です。中でもセンサのデータから安定性を解析する処理の高速化は、現行のスパコン以上の性能を必要とし、最も解決が難しい課題のひとつです。
現行のスパコンは多数のCPUを接続して性能を向上させます。この方式は数値シミュレーションのように1週間の計算を1日に短縮するには適していますが、CPU間の通信に時間を要するため、1分の計算を1秒にすることは困難です。加えて、不安定性の監視のためには常時占有が必要なので、多人数で共有するスパコンは適していませんでした。
スパコンを超える単体計算能力を持ち、常時占有可能という二点を兼ね備えた環境構築のため、私たちは高い計算能力を持ちPlayStation3にも搭載された実績を持つCellを複数台接続しました(Cellクラスタ)。Cellは従来のCPUに比べ費用対効果が極めて高く安定性解析計算に必要な特徴を備える一方、その性能を引き出すためには高度なプログラミング手法が必要です。
今回は安定性解析計算の中で最も計算時間のかかる処理である固有値解法の部分に注目し、Cellクラスタ向きの手法を検討しました。その結果、Cell間,Cell内の階層並列を考慮することで高性能を達成しました(図12-5)。更に汎用ネットワークの通信を減らすため数学的に最低限必要な通信以外を削除した計算法を考案し、従来はトレードオフであった演算性能と計算安定性を両立させました。これらの成果を統合し1秒以内で固有値を求めることが可能となり、プラズマ安定性の実時間制御法開発に向けた高速処理の目処をつけることができました。今回考案した手法は汎用性があり、原子力研究で要求されている多様な高速処理に対して幅広い応用が期待できます。
この研究は、文部科学省科学研究費補助金(No.21760701)「国際熱核融合実験炉ITERのリアルタイムモニタリングシステムの開発」の成果です。