1-8 物性値でFBR燃料の燃焼挙動を解析する

−NpとAmを含有したMOX燃料の開発−

図 1-20 約430 W/cmの線出力で10分間燃焼したNp/Am含有MOXペレット断面の組織

図1-20 約430W/cmの線出力で10分間燃焼したNp/Am含有MOXペレット断面の組織

気孔の移動や中心空孔の形成が観察できます。

 

図1-21 熱伝導率の変化

図1-21 熱伝導率の変化

熱伝導率の測定結果をもとに、Np/Am含有,O/M比,密度及び温度を関数とした評価式を作成しました。計算結果から、Np/Am含有による影響はわずかで、O/M比では大きく変化することが分かります。

 

図 1-22 燃料ペレット径方向の温度分布計算結果

図 1-22 燃料ペレット径方向の温度分布計算結果

Np/Am含有による燃料温度に及ぼす影響はわずかです。一方、O/M比では大きく異なり、O/M=1.96の燃料の方が、最高温度が高いことが分かります。

次世代のFBR用燃料としてMA元素を含んだMOX燃料の開発を進めています。NpやAmなどのMA元素は、原子炉内で核反応によって燃料中に生成する元素ですが、再処理工程において、それらの元素を抽出し、燃料に混合してFBR用の燃料として使用することが計画されています。このような新しい燃料の開発を行うためには、燃料の原子炉内での燃焼挙動を評価する技術を開発することが必要です。本研究では、NpとAmを含有したMOX燃料を「常陽」において実際に燃焼させ、燃焼中の組織変化やNpとAmの挙動を調べました。さらに、燃料の熱伝導率や融点などの物性データを測定・評価し、それらの物性値を用いて燃焼した燃料の温度分布などを解析する技術の開発を進めました。

図1-20に、燃焼試験後の燃料ペレットの組織を示します。開発を進めている燃料は、燃料寿命を長くするために酸素/金属比(O/M比)が従来の燃料(O/M≒1.98)より低い1.97以下の仕様になっています。そのため、O/M比をパラメータとして試験が行われました。FBR燃料は、軽水炉燃料に比べ高い線出力で運転されるため、燃料の最高温度は2300K以上 の高温に達し、ペレット径方向に大きな温度勾配ができます。そのため、図1-20に示すように燃料ペレット内では、気孔の移動によって中心空孔の形成などの組織変化が起こります。また、元素分析の結果、中心空孔周辺部では、AmとPu濃度の上昇が観察されました。図1-21にMOXとNp/Am含有MOXの熱伝導率を比較します。Np/Am含有による影響は小さく、O/M比の低下は、熱伝導率を大きく低下させることが分かります。得られた物性式を用いて燃焼中のペレット径方向の温度解析を行いました。

温度解析は、ペレット径方向の温度勾配によって引き起こされるO/M比の変化(再分布)を考慮して行いました。計算結果を図1-22に示します。O/M比が低い燃料の方が、より高い最高温度に達していることが分かります。融点の測定結果から、MOX及びNp/Am含有MOXの融点は3000Kよりも高いことを確認しました。そのため、燃料は、燃焼中には溶融していないことが確認できます。燃料が最高温度で未溶融であったことは、燃焼後のペレットの組織観察の結果からも確認することができました。


●参考文献
Morimoto, K., Kato, M. et al., Thermal Conductivity of (U, Pu, Np)O2 Solid Solutions, Journal of Nuclear Materials, vol.389, issue 1, 2009, p.179-185.