図4-12 180Taを生成するニュートリノ反応
図4-13 超新星爆発における180Taと光子の相互作用
太陽系に存在する約290種類の核種は、起源がそれぞれに解明されつつあります。しかし、太陽系で最も希少な核種である180Taの起源は大きな謎でした。過去30年間にわたり、超新星爆発における急速な中性子の捕獲反応,超新星爆発の光核反応,銀河系宇宙線による核破砕反応等の様々な仮説が提唱されてきました。しかし、これらの仮説による理論計算では太陽系に存在する180Taの量を再現できませんでした。
このような中、超新星爆発で発生するニュートリノによる生成が提唱されました。超新星爆発で中心部に生成された原始中性子星から膨大な量のニュートリノが放出されます。このニュートリノが超新星の外層に存在する181Taや、180Hfとニュートリノ反応を起こし、180Taを生成します(図4-12)。しかし、理論計算では、太陽系に存在する180Taはもっと少ないはずであるという問題が見つかりました。180Taには安定な核異性体と短時間で消滅する基底状態が存在しますが、従来の理論計算では核異性体を適切に取り扱えませんでした。
超新星爆発の高温の環境では、高エネルギーの光子の吸収と放出によって核異性体と基底状態が相互に変換されます(図4-13)。この変換割合は温度に依存しますが、超新星爆発では1GK以上の極めて高い温度に達したあとに数10秒の時間で急速に下がります。
従来の理論では、基底状態と核異性体だけでなくすべての中間状態を組み込んで計算する必要がありました。しかし、180Taの中間状態の数が膨大であるため計算できませんでした。本研究では、基底状態と核異性体を別々の核種と見なすことで計算を可能にしました。刻々と変化する温度に対する核異性体の割合を計算しました。超新星爆発の温度が十分に下がった時点で、核異性体の割合が39%であることが判明しました。さらに、この値は超新星爆発の爆発エネルギー,最高温度,冷却の平均時間等の物理条件に依存しないことが判明しました。この39%の値を用いて、超新星ニュートリノによる180Taの生成量を求めたところ、太陽系に存在する量を初めて再現することができました。同時に超新星爆発における電子型ニュートリノの平均エネルギーは12MeVでなければならないことも判明しました。この結果は、スーパーカミオカンデ等で期待される銀河系で次に発生する超新星爆発のニュートリノ観測の予測に貢献するものです。