図4-10 分散型X線吸収分光システムの概要図
図4-11 X線吸収分光パラメータの時間変化
自動車から排出される一酸化炭素(CO),一酸化窒素(NO)などの有害ガスは、金属微粒子による触媒反応によって無害なガスに浄化されます。この触媒反応中には金属微粒子自身も様々な変化を示すことが分かっており、触媒反応の更なる理解のためには、金属微粒子を直接観測する必要があります。X線吸収分光法は元素選択性を持つ構造解析手法であるため、微量添加物である金属微粒子のみの情報を選択的に得ることができます。本研究ではこの特徴を活かし、パラジウム(Pd)金属微粒子のCO/NO触媒反応中における挙動を観測しました。
図4 -10に、本研究で採用した分散型X線吸収分光システムの概要を示します。通常の方法では、分光結晶を動かしてX線の入射角を変える必要があるのですが、湾曲分光結晶を使用することで、機械的に動く機構を必要とすることなく、吸収スペクトルの計測が可能です。これにより、時間変化する現象を連続的に測定することが可能になり、また、その際の高い安定性が期待されます。
図4-11に、反応中のアルミナ担持Pd金属微粒子に対して得られたX線吸収分光パラメータの時間変化を示します。この変化から、CO及びNOを順次導入する中で、Pd金属微粒子の構造,形態,酸化状態が変化している様子を読み取ることができます。原子間距離の相対精度は0.05%であり、細かな変化も観察することが可能です。
一連の変化の概要を説明します。CO導入後の変化を見ると、0.07Å程度の原子間距離の膨張が観測されました。これにより、COの一部が解離して、C原子がPd微粒子の中に侵入していることが分かりました。それに伴う配位数の減少は、粒子が小さくなったあるいは角張ったことにより、表面積が増えたことを意味しています。これらの変化は、NOを導入することにより速やかに元の状態に戻ります。エッジ(吸収端エネルギー)位置の引き続いての上昇は、Pd微粒子の表面がNOにより酸化していく様子を示しています。再びCOを導入すると、エッジ位置の正のピークで表される特異な吸着状態を取ったあとに、酸化膜は速やかに除去されます。
本研究により、Pd微粒子が触媒反応中に起こす変化を直接知ることができ、今まで知られていなかった触媒反応中の金属微粒子の挙動を見つけることができました。この結果は、新たな特性を持つ触媒の開発につながると考えています。