4-4 表面形状変化をナノメートルの精度で直接観察

−ナノメートルの形状変化が瞬時に測れる軟X線レーザー干渉計を開発−

図4-8 軟X線レーザー干渉計によって得られた、レーザー照射後のPt試料表面形状変化の干渉像

図4-8 軟X線レーザー干渉計によって得られた、レーザー照射後のPt試料表面形状変化の干渉像

レーザー照射された部分を赤の点線で示しています。レーザー照射から25ps後に表面の歪みが出始め、50ps後には明確な干渉縞の変化が観測されました。その後、膨張部分がプラズマとなって吹き出したため、中心部分に穴(クレータ)が形成されています。

 

図4-9 レーザー照射から50 ps後と十分に時間が経ったあとの干渉像から復元された試料表面の形状

図4-9 レーザー照射から50ps後と十分に時間が経ったあとの干渉像から復元された試料表面の形状

50ps後での表面の膨張部分の高さは30nmに達しています。照射後に形成される中心部分のクレータの大きさが膨張した領域よりもひと回り小さくなることも、この実験から明らかになりました。

近年、ナノスケールの表面形状変化を観察する手法の必要性が高まっています。次世代不揮発メモリの候補である強誘電体の構造相転移や、レーザー加工の初期過程における試料の深さ方向の変位量はナノメートルの大きさであり、それらの現象を精度良く観察して理解することにより、将来的にはこれらの過程を制御した応用・実用が可能になります。従来からナノメートルの深さを測定する手段として原子間力顕微鏡や走査型電子顕微鏡などがありますが、どちらも静的な構造を観察するもので、ピコ秒という短時間で起こる形状変化を見る手段はありませんでした。
  私たちは、東京大学物性研究所及び徳島大学と協力し、原子力機構の軟X線レーザー(波長13.9nm,時間幅7ps)を光源とするレーザー干渉計を開発しました。軟X線レーザーは、試料表面の平坦部分と凹凸の部分の両方を照らして反射したあと、ダブルロイズ鏡と呼ばれる入射角をお互いに少しだけずらした2枚の鏡に入射します。試料上の平坦部分で反射した軟X線レーザーは上流側の鏡(第一ロイズ鏡)、凹凸の部分で反射した軟X線レーザーは下流側の鏡(第二ロイズ鏡)により反射したあと、両者が検出器の位置で重なることで干渉縞を得ます。この干渉計により深さ方向1nm,表面方向1.5μmの形状変化を7psの時間分解能で観測することが可能になりました。
  この干渉計を用いて、レーザー照射時に金属表面が融解し膨張していく様子を観察しました。時間幅100fsの赤外線レーザーをプラチナ(Pt)試料に照射し、それと時間的に同期した軟X線レーザーで表面の形状を記録していきます。図4-8に、そのときに得られた干渉像を示します。レーザー照射後、約25psから表面の変形が始まり、50psには膨張領域が形成され、最終的に表面に穴 (クレータ)が生じる様子が観測されました。図4-9は時刻50psと照射後の干渉縞から表面形状を復元した結果です。時刻50psでの膨張部分のピークの高さは30nmに達しています。また、照射後のクレータの大きさは膨張領域よりもひと回り小さくなることも今回の観測から明らかになりました。このようにレーザー加工の初期過程での表面形状変化の様子をナノメートルの精度で直接観察した例は今までになく、この新しい計測手法によって初めて可能になりました。今後、より詳細な観測を行い理論計算と比較することで、将来的にレーザー加工の初期過程が解明され、レーザー溶接のモデリング確立やレーザーによる表面改質,ナノ構造形成などの現象の理解につながると考えられます。