図4-6 重い電子がかかわるフェルミ面形成の概念図
図4-7 角度分解光電子分光から得られたフェルミ面
金属中の電子は、動き回って電気伝導を担う「遍歴電子」と、動き回らずに磁性を担う「局在電子」に分けられます。この二種類の電子の間に強い相互作用が働いて混じり合うと、見かけ上通常の電子の10〜1000倍にも重くなったように見える重い電子が現れます。この重い電子の性質を明らかにすることは、磁性と共存する超伝導の機構解明につながると考えられています。一方、金属は固有の形を持つフェルミ面を必ず持っており、各金属の電気伝導の性質がその形の違いとして表れるため、フェルミ面は 金属の顔 と呼ばれています。もし、重い電子が作るフェルミ面を観測できれば、重い電子が担う電気伝導の性質について金属ごとの相違点を精密に研究できるようになりますが、重い電子が作るフェルミ面を直接観測した実験はこれまでありませんでした。
今回、SPring-8の原子力機構専用ビームラインBL23SUにおいて、軟X線放射光を用いた「共鳴角度分解光電子分光」実験によって、従来の手法ではできなかった特定の電子軌道の選択的観察を行い、重い電子がフェルミ面を実際に作っていることを直接観測することに世界で初めて成功しました。図4-6は、固体内に遍歴性の強い電子と局在性が強い電子とが存在する場合のフェルミ面形成の概念図であり、両者の間に軌道混成がある場合には、重い電子が発現するとともに、遍歴性の強い電子が作るものと局在性の強い電子(重い電子)が作るものとの二種類のフェルミ面が形成されます。共鳴角度分解光電子分光を用いることで、図4-7のように、非共鳴エネルギーでは遍歴性の強いフェルミ面を、共鳴エネルギーでは重い電子が作るフェルミ面をそれぞれ選択的に強調した形で観測することができました。
今後、共鳴角度分解光電子分光法を用いて、重い電子がどのようなフェルミ面を作るときに超伝導や磁性が発現するかを系統的に明らかにできれば、重い電子を持つ金属で見られる磁性と共存する超伝導の機構解明が大きく進むと期待されます。