図4-15 ブロックグラフト膜の合成スキーム
図4-16 PSSAのみのグラフト重合膜とブロックグラフト膜との耐久性比較
固体高分子型燃料電池は、発電と給湯を同時に行える家庭用燃料電池システムや燃料電池自動車の動力源として研究開発が活発に進められています。この燃料電池の発電性能を決める高分子電解質膜には、高いプロトン伝導性と耐久性が要求されています。
放射線グラフト重合は、高分子自身の性能を損なわずに新たな機能性を与えられることから、エチレンテトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)などのフッ素系膜にプロトン伝導性のモノマーを放射線グラフト重合した高分子電解質膜が合成され、燃料電池としての高い性能が報告されています。しかし、これまで導入されたグラフト鎖(ポリスチレンスルホン酸:PSSA)は、プロトン伝導性には優れますが、炭化水素骨格が膜の組成とは異なるため、耐久性に問題がありました。
そこで、膜の基材に臭素を有するフッ素モノマーを重合 できれば、フッ素系膜との親和性による耐久性の向上と、 臭素を開始剤としたリビンググラフト重合によるプロトン伝導性基の導入が両立できると考えました(図4-15)。しかし、これまで全フッ素系モノマーの高分子へのグラフト重合の報告例がないことから、その方法について種々の条件を検討した結果、膜をモノマーに浸漬した状態でγ線を照射する同時グラフト法を用いることで重合を進められることを見いだし、グラフト重合率25%の膜を作製することに成功しました。さらに、グラフト鎖の臭素原子を利用した第二段階のリビンググラフト重合 について検討した結果、銅錯体触媒の比率等の反応条件の 制御により、PSSAがブロックグラフト鎖として導入でき ることが分かりました。新しく開発した電解質膜は、グラフト率が15%以上の時に市販のナフィオン膜 (Nafion 117)のプロトン伝導性を上回る性能が得られることが分かりました。また、耐久性の指標である酸化分解の促進条件 (60℃ の過酸化水素水溶液に浸漬)でも、膜の基材にPSSAだけグラフトしたETFE電解質膜に比べ耐久性が3倍も高くなることが分かりました(図4-16)。
このようにフッ素系モノマーの放射線グラフト重合と リビンググラフト重合に初めて成功したことにより、耐久性フッ素高分子とイオン伝導性の親水性高分子をブロッ ク的に結合した構造を形成できました。このブロックグラフト鎖の新たな形成方法は、燃料電池自動車などに適用できる高導電性電解質膜の合成法として期待できます。