4-9 原子炉の厳しい放射線環境でも動作する半導体

−高耐放射線性の炭化ケイ素半導体トランジスタの開発−

 

図4-17 吸収線量と耐圧の変化量の関係

図4-17 吸収線量と耐圧の変化量の関係

Si IGBTとSiC SITでは、半導体の信頼性が低下する原因となる降伏電圧が、10MGyという高強度の放射線を受けた あとでも、初期特性からの変化が少ないことが分かりました。

 

図4-18 吸収線量とオン電圧の変化量の関係

図4-18 吸収線量とオン電圧の変化量の関係

Si MOSFETとSiC SITでは、半導体の動作電圧を決めるオン電圧が、10MGyという高強度の放射線を受けたあとでも、初期特性からの変化が少ないことが分かりました。

炭化ケイ素(SiC)を用いると、一般的に利用されているシリコン(Si)に比べて、エネルギー損失を抑えた高効率な半導体を作製できます。そのため、SiCは次世代の省エネルギー半導体として注目されています。さらに、SiCはSiの物理限界を超える厳しい条件でも動作させることが可能です。このようなSiCの利点を活かして、私たちは、原子力施設や宇宙といった厳しい放射線環境でも動作するSiC半導体の開発に関する研究を行っています。
  今回、SiC基板で作製した静電誘導型トランジスタ(SiC SIT)に対して、吸収線量が10MGyとなるまでコバルト60γ線照射を行いました。比較の目的で、Si基板で作製した金属-酸化膜-半導体トランジスタ(Si MOSFET)及び絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ(Si IGBT)へのγ線照射実験も行いました。それぞれの試料に対して、照射後の電流-電圧特性を調べたところ、SiC SITやSi IGBTでは、降伏電圧の変化が微少であるのに対して、Si MOSFETでは、吸収線量の増加とともに降伏電圧が低下してしまうことが分かりました(図4-17)。また、SiC SITやSi MOSFETでは、オン電圧の変化が微少であるのに対して、Si IGBTでは、数100kGy程度の吸収線量でもオン電圧が急激に増加することが分かりました(図4-18)。
  降伏電圧が低下する現象は、半導体の信頼性が低下することを意味します。また、オン電圧が変化する現象は、動作を開始する電圧が変動してしまい、設計とおりに回路が動作できないことを意味します。これらの現象は、放射線環境下で使用する半導体にとって、致命的な欠点といえます。Siを基板として作製したIGBTやMOSFETでは、γ線を照射したあとに致命的な電気特性の劣化が観察されましたが、SiC SITでは、設計目標線量である10MGy照射後も初期特性からの大きな変動はなく安定した電気特性が得られました。以上のことから、原子炉環境の厳しい放射線環境にも耐えうる世界でも類を見ない高耐放射線性のトランジスタの開発に成功しました。
  本研究は、文部科学省の平成20年度原子力基礎基盤戦略研究イニシアティブにより実施された「革新的原子力エレクトロニクス技術を活用した原子炉制御・保全システムに関する基盤研究」の成果の一部であり、独立行政法人産業技術総合研究所から委託を受けて進めたものです。