7-1 超重原子をシングルアトムで分析する

−フロー電解クロマトグラフ法によるNo元素の酸化−

 

図7-3 フロー電解クロマトグラフ装置

図7-3 フロー電解クロマトグラフ装置

水溶液導入口から導入されたシングルアトムは、カラム状の作用電極を通過したあと、出口から溶出します。その際、ナフィオン化学修飾電極で、酸化還元とともに陽イオン交換分離が行われます。

 

図7-4 No及び Sr, Ybの溶出挙動

図7-4 No及び Sr,Ybの溶出挙動

(a)印加電圧0.2V及び(b)1.2Vにおける No()と Yb()の溶出挙動、(c)Sr(0.2V:,1.2 V:)並びに Yb(0.2V:,1.2V:()の溶出挙動です。

周期表の最も下に位置する超重原子の電子状態には相対論効果が強く働きます。相対論効果の影響を明確にするためには、価電子状態を強く反映する酸化還元的性質を決定することが重要です。しかし超重原子は生成率が極端に小さいため、わずか一個の原子(シングルアトム)を用いて性質を調べる必要があり、酸化還元的性質は全く分かっていません。そこで私たちはシングルアトムの酸化還元を分析できるフロー電解クロマトグラフ法を独自に開発し、これを102番元素ノーベリウム(No)に適用してその酸化反応を初めて観測しました。

実験では、原子力科学研究所のタンデム加速器施設を用い、炭素-12(12C)ビームとキュリウム-248(248Cm)標的の核反応によって255Noを合成しました。255Noの生成率は1分間当たり約30個で、半減期は約3分です。これを0.1Mα-ヒドロキシイソ酪酸(α-HIB)水溶液に溶解し、図7- 3に示すフロー電解クロマトグラフ装置によって分析しました。 Noは2価イオンが最も安定で、3価イオンへと酸化されます。 Noがこの装置に導入されると、カラム状の作用電極を通り抜けます。この電極はナフィオン (陽イオン交換体)で化学修飾したカーボンファイバーの束からなっています。そのため、その電極上ではNoが酸化されると同時に陽イオン交換分離され、その挙動から酸化反応を確認できます。

図7-4に、Noの溶出挙動(a),(b)並びにSr2+とYb3+の挙動(c)を示します。YbとSrの溶出挙動から、2価イオンと3価イオンは大きく挙動が異なることが分かり ます。 0.2Vの電圧をナフィオン電極に印加した場合(図7-4(a))、 Noはα-HIB水溶液では溶出しません。 この挙動はSr2+と類似しており、 Noが安定な2価イオンとして存在することを示しています。一方、より高い印加電圧である1.2Vでは(図7-4(b))、Noの溶出挙動はYb3+の挙動とほぼ同じで、 Noが3価イオンに酸化された ことが分かります。このように私たちはシングルアトムレベルにおける電気化学的な酸化に初めて成功しました。

本研究によって、シングルアトムレベルでの電気化学分析法という新たなアプローチを切り開くことができました。今後、私たちはこのアプローチをほかの超重元素にも適用し、その酸化還元的性質を明らかにしていきたいと考えています。