原子力にかかわる技術の多くは、総合科学の結集として、その基盤が支えられています。しかし原子力研究開発においては、今日的なエネルギー問題などの解決もさることながら、10年後あるいは20年後に来るであろう原子力利用の新しいフェーズに対応できる資質と体力を常に備えておくことも必須の課題といえます。
先端基礎研究センターでは、原子力科学における無限の可能性を基礎科学の立場から掘り起こし、更にその過程から新しい学問分野を開拓し、学術の進歩と最先端の科学技術の振興を図ることを目指しています。2009年度は、超重元素のシングルアトム分析,ウラン化合物での新奇物性の発見,超重力場下での同位体分離法の開発,微生物が作り出すナノ粒子の生成及び放射光による選択的 DNAの損傷等で顕著な成果を挙げました。これらについては次ページ以降で詳しく述べます。
2010年度から始まる中期計画では、センタービジョンとして、(1)世界最先端の先導的基礎研究の実施,(2)国際的研究拠点の形成,(3)新学問領域の開拓とそのための人材育成を掲げ、先端材料基礎科学,重元素 基礎科学及び放射場基礎科学の三分野を設定しました。
先端材料基礎科学では、数値シミュレーションによる新機能材料の創出,分子・ナノ炭素系におけるスピン伝道機構の解明及び電子スピンと力学的トルクとの相互作用によるスピンメカトロニクスの開拓の3テーマを、重元素基礎科学では、核子移行反応による重原子核反応特性の解明,超重元素の価電子状態と超重核の殻構造の解明,アクチノイド化合物の物質開発及び重元素系化合物のための新しい固体物理コンセプトの開拓の4テーマを、そして放射場基礎科学では、ストレンジネスを含む原子核とハドロンの構造解明,バイオ反応場におけるアクチノイドのナノ粒子化機構の解明,放射場における生体分子の変異と生体応答の解明及びスピン偏極陽電子ビーム技術の開発と最表面磁性の解明の4テーマを実施しています(図7-1)。
これらの先端的な研究を推進していくために、センター内の協力はもとより、原子力機構内の他部門との連携や機構外の研究機関との研究協力を精力的に実施しています。また、黎明研究制度を実施して、国内外から斬新な研究のアイデアを募り、先端基礎研究に活用しています(図7-2)。