図6-20 地下の岩盤から地下水と岩石を採取
図6-21 地下水の塩濃度が変化した場合のセレンの収着性の変化
高レベル放射性廃棄物(HLW)の地層処分は、使用済燃料を再処理したあとに残る高レベル放射性廃液をガラス固化したあと、オーバーパックという鉄の容器で密封し、その周辺をベントナイトという粘土鉱物を主成分とした緩衝材で覆い、300mより深い安定な岩盤中に埋設する方法です。 HLWの中には、長寿命の放射性核種が含まれているので、地層処分の安全性を評価する際には、長い期間のうちにはそれらが溶け出し、岩盤中を移行し、人間に被ばくを与える可能性を考慮します。放射性核種が岩盤中を地下水の流れによって移行する際には、岩盤を構成する鉱物に収着されることにより、その移行が遅延されることが期待されています。そこで、処分場の周りの岩盤内で、放射性核種がどのように移行しうるかを理解する必要があります。地下深部は地表に比べて酸素が乏しく還元性の条件になっており、また、地下水中の塩濃度によって放射性核種の収着性が影響される可能性があります。
本研究では、天然の岩盤から地下の還元状態を変化させないように注意しながら採取した地下水と岩石(図6-20)を用いて、地下水の塩濃度が放射性核種の収着性に与える影響を調べました。地下の還元状態を維持するため、アルゴンガスを循環させたグローブボックスを使用して、酸素濃度の非常に低い雰囲気(1ppm以下)において実験を行いました。
得られた結果より、地層処分の安全性評価において被ばく線量を支配する元素のひとつであるセレンとセシウムについて砂質泥岩への収着性を示します(図6-21)。セレンは岩石に収着しにくい負イオンを形成しますが、還元性の実験環境では鉱物表面との特異的な結合により、陽イオンであるセシウムと同等の収着性を有することが分かりました。また、収着率は地下水の塩濃度が高くなることによって緩やかに低下するものの、その影響は顕著ではないことが確認されました。
このように、岩盤中の鉱物には放射性核種を収着する働きがあることを実証し、地下水の塩濃度が変化してもこの働きが大きく阻害されることがないことを確認しました。処分場の周りで起こりうる環境の変化によって、放射性核種を収着する働きがどのように変化するのかについて、信頼性のある評価に必要な情報の蓄積を進めています。
本研究は、経済産業省原子力安全・保安院からの受託研究「平成18年度放射性廃棄物処分の長期的評価手法の調査」の成果です。