図6-1 安全研究の主な課題,成果の反映及び原子力機構内連携
エネルギー及び環境問題から、原子炉の出力を高めるアップレート,燃料の長期利用(高燃焼度化),発電所の高経年化対策等,軽水炉利用を高度化することが求められていますが、これらは安全性を確認しながら進められなければなりません。私たちは、高度利用の進む軽水炉の安全性に関する研究を行い、国が行う安全審査での規制判断や指針類の策定のベースとして科学技術データを提供しています。現在は、原子力安全委員会が定めた 「原子力の重点安全研究計画」等に沿って、高燃焼度燃料の事故時挙動,材料劣化・高経年機器の健全性、事故時の熱流動,核燃料サイクル施設の安全性や放射性廃棄物処分などに関する研究課題に取り組んでいます(図6-1)。本章では上記課題に関し得られた最近の成果を紹介します。
燃料の高燃焼度化に関しては、実際の原子炉温度条件での事故時燃料破損に関するデータ(トピックス6-1)や高燃焼度混合酸化物(MOX)燃料の熱特性についてのデータを取得しました(トピックス6-2)。機器及び材料の高経年化に関しては、ハフニウム制御棒を長期間使用する際に問題となる寸法安定性に影響を及ぼす水素化物析出について調べました(トピックス6-3)。また、原子炉圧力容器の長期利用に関連し、微細組織変化を系統的に観察することにより照射脆化の機構に関する知見を得ました(トピックス6-4)。さらに、原子炉圧力容器内表面の肉盛溶接により生じる残留応力が圧力容器の健全性に及ぼす影響を解析により調べました(トピックス6-5)。確率論的安全評価から得られたリスク評価結果の不確実さを低減するために、重要な因子を見いだせる指標の提 案及び汎用コードの開発を行いました(トピックス6-6)。事故時の熱流動に関しては、炉心が損傷するような事故が起こった場合に環境へ放出される放射性ヨウ素の量を より定量的に評価するために、 放射線化学反応による気体状ヨウ素の発生について調べました(トピックス6-7)。核燃料サイクル施設の安全評価に関しては、施設の臨界安全性を評価する新たな手法の検証と基礎データの計算を行い、臨界安全ハンドブック・データ集を更新しました(トピックス6-8)。放射性廃棄物処分に関しては、放射性物質の地下水による移行の解析に役立てるため、 放射性物質の収着性に関するデータを整備しました(トピックス6-9)。