5-2 光の圧力で粒子にエネルギーを限りなく与え得ることを提唱

−光圧力による薄膜状プラズマの同期加速−

 

図5-4 レーザーピストン加速法によるプラズマ面の加速

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図5-4 レーザーピストン加速法によるプラズマ面の加速

レーザーがプラズマを押し延ばして、プラズマの厚さを薄くしていくことで、加速中のプラズマ面の密度が減少し、限りなく粒子を加速できるという理論を提唱することができました。

私たちは、これまで提唱してきました「レーザーピストン加速法」に関して、これまで得られた値より、はるかに高いエネルギーを持つ粒子が発生できる理論を新たに提唱しました(図5-4)。

光医療研究連携センターでは、粒子線がん治療装置のコンパクト化のためにレーザーによる粒子加速の研究を行っています。特に、治療装置の実現のためには、理論計算に基づいて技術開発を行う必要があります。今回、私たちは、その理論計算研究において、いくつかあるレーザーによる粒子線加速方法の中で、ナノメートル厚さの薄膜にレーザーを集光し、光の圧力で薄膜を直接加速するレーザーピストン加速法に着目しました。これまでのレーザーピストン加速法の理論では、図5-4の左に示すように、加速中の薄膜は一定の面密度の状態を保ちながら加速されるという考え方でしたが、今回の理論は、従来の理論計算の中に、加速中の粒子からなる薄膜状のプラズマの面密度が時間とともに減少するという条件を加えることで、加速される粒子の数は減るものの、これまでよりもはるかに高いエネルギーへの加速が可能になることを見いだしました。加速される薄膜状プラズマの面密度が時間とともに低くなればその分より速度を増すことができますが、この効果を考慮に入れると、レーザーのプラズマ中の伝搬速度と、この薄膜状プラズマの速度がほぼ等しくなる可能性が生じます。その場合には、加速を引き起こすレーザーが薄膜状プラズマを追い越すことなく同期が取れた状態で、いつまでもそれを押し続けるという状況が可能になり、すなわち限りなく薄膜状プラズマを構成する粒子を加速しエネルギーを与え続けることができるということになります。

今後、この理論が示す結果に基づいて、プラズマの面 密度制御技術を確立できれば、粒子線がん治療に必要な200MeVの陽子は、強度200TWのレーザー光を厚さ数nmの薄膜ターゲットに照射することで達成されると予想され、これまでの理論で示されていたレーザーより5分の1のサイズでレーザー治療器が実現できることになります。

本研究は、文部科学省科学技術振興調整費先端融合領域イノベーション創出拠点の形成「光医療産業バレー拠点創出」及び文部科学省科学研究費補助金 (No.20244065)「『光速飛翔鏡』による新しいX線発生機構の研究」の成果の一部です。