5-1 レーザー駆動粒子線がん治療装置開発のための新しい高効率イオン加速法の実証

−ナノ粒子ターゲットから生成されるサブ臨界密度プラズマを利用した粒子加速−

図5-3 レーザー駆動イオン加速の概念図

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図5-3 レーザー駆動イオン加速の概念図

従来手法(a)では、数μm厚の「固体薄膜ターゲット」にレーザー光を集光して、高エネルギーイオンを加速させていました。新しい手法(b)では、「固体薄膜ターゲット」に替わり、「ナノ粒子ターゲット」に従来手法と同規模クラスのレーザー光を集光しました。「ナノ粒子ターゲット」では、「固体薄膜ターゲット」の場合と異なり、レーザーのエネルギーを極めて効率的に吸収する状態(サブ臨界密度プラズマ)を作り出すことが容易です。その結果、「ナノ粒子ターゲット」を用いることで、「固体薄膜ターゲット」を用いる場合よりも、約10倍高いエネルギーにまでイオンを加速することができることを世界で初めて実証しました。

高強度レーザーを集光して物質に照射することにより、ミクロン程度の空間内に極めて強い電磁場が生成します。このような強力な電磁場を用いることによるレーザー駆動のイオン加速は、粒子線がん治療装置の小型化,低価格化の観点から注目を集めています。レーザー駆動イオンビームの医学利用のためには、80〜250MeVのイオンビームを発生させる必要があります。しかし、従来から行われている「固体薄膜ターゲット」を用いたイオン加速手法(図5-3(a))でこれを実現するには、巨大なレーザーエネルギーが必要であり、超大型のレーザー装置を新たに開発する必要がありました。そのため、レーザーを含めた治療装置全体の小型化のためには、現在世界で広く利用されている小型レーザー装置を用いた、新たな高効率のイオン加速手法の開発が必須でした。

私たちは、「固体薄膜ターゲット」に替わり、「ナノ粒子ターゲット」(図5-3(b))に高強度レーザーを照射して、レーザーのエネルギーを極めて効率的に吸収する状態(サブ臨界密度プラズマ)を作り出すことに成功しました。その結果、同規模クラスの小型レーザー装置を用いた場合、「ナノ粒子ターゲット」から発生するイオンのエネルギー(10〜20MeV)は、「固体薄膜ターゲット」の場合(1〜2MeV程度)よりも、約10倍高くなることを世界で初めて実証しました。

この実験結果とコンピュータシミュレーションの結果 から見積もると 、「ナノ粒子ターゲット 」では1020W/cm2以上の集光強度で、最大エネルギー約200MeVのイオンが発生可能となり、私たちが目標とする粒子線治療に必要な加速エネルギーが達成できると予想されます。この集光強度は、現在、光医療研究連携センターで用いている小型レーザー装置のビーム品質を高めることで、十分に達成可能です。

さらに、この手法は、医療応用に必要とされるエネルギーのイオンを発生させるだけでなく、ターゲットの連続供給で粒子線量を増加させ治療時間を短縮することが可能、粒子線の発散角が小さく照射系の小型化が可能という特徴も併せ持っています。

以上のことから、「ナノ粒子ターゲット」を用いたイオン加速は、今後のレーザー駆動の超小型粒子線がん治療 装置開発の進展を一気に加速させると期待されています。