図5-1 現在の粒子線医療装置と開発を目指す「レーザー駆動粒子線治療器」(概念図)
図5-2 「光医療産業バレー」拠点創出プロジェクトの連携協力体
光医療研究連携センターでは、粒子線がん治療の普及などの医療イノベーションへの貢献を目指したプロジェクトとして、高強度レーザーによるレーザー加速技術を医療に応用した極めてコンパクトで低コスト化した、革新的な 「レーザー駆動粒子線治療器」(図5-1)の開発を推進しています。
本プロジェクトは、「研究開発拠点」となる原子力機構の光医療研究連携センターが中核となり、10の協働機関とそのほかの研究協力機関が連携して(図5-2)、2007年度から文部科学省の科学技術振興調整費を獲得して進めてきました。
「レーザー駆動粒子線治療器」の開発については、がん治療に適した陽子線ビームを作り出すための研究開発を行いました。本プロジェクトの成功に向けて鍵となる陽子線のエネルギー増強に向け、ナノ粒子ターゲットを用いた新しいレーザー駆動イオン加速手法を世界で初めて実証し、核子当たり20MeV以上のイオンを発生できることが確認できました(トピックス5-1)。また、ターゲット物質とレーザー照射条件の検討を進め、薄膜法で14MeVの陽子線ビームを生成することに成功しました。
レーザー駆動による陽子線ががんの治療に応用できることを確認するために、がん細胞に対する照射効果の実証試験を行い、世界で初めてレーザー駆動陽子線照射によりヒト由来のがん細胞のDNA2本鎖を切断できることを実証しました。
また、レーザー駆動粒子線と従来加速器による粒子線との照射効果の違いを調べるため、兵庫県立粒子線医療センターに整備した研究用照射室で、ファントム照射による自己放射化測定や細胞照射による生物学的効果を調べる実験を行いました。
光医療システムの産業応用・展開については、機械工業における金属磨耗のレーザー駆動リアルタイム計測器としてレーザー陽子線による放射化実証と装置の仕様の検討を行いました。また、低侵襲性医療装置の開発では、「低侵襲レーザー治療器」を円滑に操作するための統合用ソフトウエアの開発を進めるとともに、臨床実証の試験に着手しました。
このような成果をもとに、2010年度には本プロジェクトのステップアップを目指し、科学技術振興調整費によるプログラムの審査に再チャレンジします。