4-13 小さながんでも見逃さない新しいRI薬剤を開発

76Br-MBBGによる褐色細胞腫のPET画像化に成功−

図4-25 76Br-MBBGの化学構造(左)と小動物用PET装置(右)

図4-25 76Br-MBBGの化学構造(左)と小動物用PET装置(右)

76Br-MBBGは、半減期16時間のポジトロン放出核種である 76Brを、化学反応により褐色細胞腫に取り込まれる性質を持つベンジルグアニジンへ導入した化合物です。その後、褐色細胞腫を移植したマウスに76Br-MBBGを投与し、一定時間経過したあと、小動物用PET装置を用いて20分間撮像します。

 

図4-26 褐色細胞腫移植マウス(左)と76Br-MBBG投与3時間後のPET画像(右)

図4-26 褐色細胞腫移植マウス(左)と76Br-MBBG投与3時間後のPET画像(右)

黄色の矢印の部位に腫瘍(=がん)を移植してあります。 PET画像から、76Br-MBBGが紫色や緑色で示された正常部位よりもはるかに多量にがんに集積し、鮮明に描出されている様子が分かります(中央部の集積は尿中に排泄された76Br-MBBGが膀胱に集積している)。さらに、赤色の矢印で示す集積は PET画像をもとに発見されたとても小さながん(2mm程度)です。

「がん」は日本人の死因第一位の疾患で、約3人に1人ががんで死亡すると言われています。この「国民病」ともいえるがんの予防あるいは完治には、早期発見による早期治療が非常に有効であり、早期発見を実現するための様々な研究が行われています。
  褐色細胞腫は主に副腎で発生し、エピネフリン(アドレナリン)などのホルモンを過剰分泌することで重篤な高血圧症を引き起こすがんです。このがんは手術以外の有効な治療法が確立されていませんが、早期に発見し、早期に治療すれば根治可能です。しかし、単一光子放射断層撮像法(SPECT)などのこれまでの検査法では、小さな褐色細胞腫を見つけ出すことが困難でした。
  そこで私たちは、小さな褐色細胞腫を見つけ出すためにポジトロン断層撮像法(PET)に着目しました。PETはポジトロン(陽電子)を放出する放射性同位元素(RI)を注射し、放射線を体外で計測することで体内での分布や生理的な機能を画像化する診断法で、近年では大きさ1cm以下の小さながんの検出にも威力を発揮しています。したがって、ポジトロンを放出し、かつ褐色細胞腫に多く集積する薬剤を開発することができれば、小さな褐色細胞腫をPETで見つけ出すことが可能になります。私たちは褐色細胞腫などに多く取り込まれるベンジルグアニジンに、ポジトロンを放出する新規RIである臭素-76(76Br)を導入したメタブロモベンジルグアニジン (76Br-MBBG)を開発しました。褐色細胞腫を移植したマウスに76Br-MBBGを注射し、3時間後に小動物用PET装置(図4-25)を用いて撮像を試みたところ、腫瘍を明瞭に描出する画像が取得できました。得られた画像を詳しく調べてみると、移植した部位とは異なる部位に粟粒大の腫瘍(2mm程度)があることが分かり、極めて小さな腫瘍の検出にも威力を発揮することが実証できました(図4-26)。
  今回得られた成果は、76Br-MBBGを用いるPET検査により褐色細胞腫の早期発見が可能になることを示すものです。また、神経芽細胞腫や甲状腺髄様がん、カルチノイドなども褐色細胞腫と同様にベンジルグアニジンを多く取り込むことから、76Br-MBBGにはこれらのがんの発見への利用も期待されます。
  なお、本研究は群馬大学医学部との共同研究により実施されたものです。