図6-4 軽水炉燃料棒の構造と燃料棒半径方向の温度分布
図6-5 高燃焼度MOX燃料棒の中心温度測定値と計算値の比較
資源の有効活用の観点から、使用済燃料の再処理で得られたプルトニウム(Pu)をMOX燃料として軽水炉で利用するプルサーマルと、燃料を長期間利用する高燃焼度化が段階的に進められています。
軽水炉で使用される燃料棒の構造を図6-4に示します。燃料棒の変形や内圧上昇に影響を及ぼすペレットの熱膨張や核分裂生成ガスの放出は、ペレットの温度に強く依存します。このため、燃料の安全評価においては、ペレットの温度を適切に評価する必要があり、温度評価に用いるペレットの熱伝導率を精度良く評価しておくことが重要です。
二酸化ウラン(UO2)ペレットについては、高燃焼度まで使用されたあとの熱伝導率の評価が進んでいますが、MOXペレットについては信頼できるデータが十分ではありません。そこで、本研究では、欧州の軽水炉において高燃焼度まで使用されたMOX燃料棒を試験炉で照射し、照射中の燃料棒の中心温度を測定することで高燃焼度 MOXペレット(約80GWd/tHM)の熱伝導率に関するデータを取得しました。
MOX燃料棒の単位長さ当たりの発熱量(線出力)を変化させたときの燃料中心温度測定値と、異なるペレット熱伝導率評価式に基づき燃料挙動解析コードにより計算した値とを比較しました(図6-5)。ここで、評価式Aは、MOXペレットの熱伝導率評価式として提案されているもののひとつで、Pu添加と燃焼に伴うUO2ペレットの熱伝導率低下を考慮したものですが、計算値は測定値より高くなっています。評価式Bは、UO2ペレットについて燃焼に伴う熱伝導率低下のみを考慮したもので、本研究で実施したUO2燃料棒の中心温度測定により、予測性能の高さが検証されています。図から分かるように、高燃焼度MOX燃料棒の中心温度測定値は、燃焼に伴う熱伝導率低下のみを考慮したUO2ペレットの評価式Bによる計算値と良く一致しました。この結果は、高燃焼度において、MOXペレットとUO2ペレットの熱伝導率の差が小さくなること、すなわち、製造時に添加されたPuよりも燃焼に伴い結晶格子に蓄積する核分裂生成物や照射欠陥の方がペレット熱伝導率に対し大きな影響を及ぼしていることを示しています。この知見は、高燃焼度MOX燃料の安全評価の高精度化に役立つものです。
本研究は、経済産業省原子力安全・保安院からの受託研究「燃料等安全高度化対策事業」の成果の一部です。