6-3 原子炉の制御棒を安全に長期間使用するために

−ハフニウムの特性評価−

図6-6 Hf板型制御棒の構造とシースひび割れの例

図6-6 Hf板型制御棒の構造とシースひび割れの例

Hf板型制御棒は、 Hf板をシースで被覆した構造となっています。2006年1月、東京電力株式会社の福島第一原子力発電所において、シース部などにおけるひび割れが発生しました。ひびの原因に関する調査結果を踏まえ、現在は制御棒の取替基準を設けるなどの再発防止対策が講じられています。

 

図6-7 水素固溶限と温度との関係(HfとZry-2との比較)

図6-7 水素固溶限と温度との関係(HfとZry-2との比較)

制御棒の使用温度(約300℃)におけるHfの水素固溶限は20ppm程度(Zry-2の1/7程度)でした。腐食などにより水素を吸収した場合には、HfではZry-2よりも低い水素濃度条件で水素化物が析出することが分かりました。

軽水炉の出力調整に用いられる制御棒は、炉心の高温・高圧水に接し、強い放射線環境に長期間さらされています。軽水炉で主に使用されるホウ素を中性子吸収材とする制御棒は交換頻度が高く、高放射性廃棄物の発生源となっています。一方、ハフニウム(Hf)は、中性子の吸収能力が長期間保持されるとともに高温・高圧水への耐食性などを有しているため、交換頻度が低く高放射性廃棄物を低減できる長寿命制御棒の中性子吸収材として使用されてきています。
  近年、Hf板型制御棒のステンレス鋼製被覆板(シース)などにおいて、照射誘起応力腐食割れと推定されるひび割れが発生しました(図6-6)。ここでは、Hf板の寸法変化がひび割れを引き起こした可能性が示されています。 Hfの寸法変化をもたらす要因としては、照射成長や水素化物の析出が考えられます。ひび割れの原因調査結果を踏まえて、現在は制御棒の取替時期に関する基準を設けるなどの再発防止対策が講じられています。 Hf制御棒を安全に長期間使用するために、私たちは安全上問題となるHfの寸法安定性を定量的に評価する研究を進めています。

炉心内で長期間使用されたHfは腐食などにより生じた水素を吸収し、吸収された水素の一部は水素化物としてHf中に析出します。水素化物が析出すると寸法変化(体積膨張)の原因になることから、Hf中に水素化物が析出する温度や水素濃度条件を把握しておくことが重要です。図6-7に、Hf中の水素固溶限、すなわち、水素化物が析出する水素濃度の下限の評価結果を示します。比較のため、Hfと化学的性質が似ているジルコニウムを主成分とし、原子力分野で広く用いられているジルカロイ-2(Zry- 2)に関する結果も示します。水素固溶限は、Hf中とZry-2中とで同様の傾向を示すことが分かりました。また、制御棒の使用温度(約300℃)におけるHfの水素固溶限は20ppm程度とZry-2よりも低く、HfではZry-2よりも低い水素濃度条件で水素化物が析出することが分かりました。今後は、Hfの寸法変化に及ぼす水素化物析出の影響を明らかにする予定です。
  本研究は、経済産業省原子力安全・保安院からの受託研究「平成19年度 軽水炉燃材料詳細健全性調査」の成果の一部です。