図6-2 破損時の燃料エンタルピー増分と外面酸化膜厚さの関係
図6-3 NSRR実験で破損した高燃焼度PWR燃料棒の被覆管
原子炉が安全に設計されていることを確認するため、通常時に加え、様々な事故を想定した場合についても安全評価が行われます。そのひとつが、制御棒が急に抜けた際の出力暴走すなわち反応度事故(RIA)です。安全評価では RIA時に燃料棒が破損に至ると判断するための基準(破損しきい値)が必要です。長期間使用された燃料(高燃焼度燃料)に対して現在我が国で使われている破損しきい値は、原子炉安全性研究炉(NSRR:Nuclear Safety Research Reactor)において室温条件(約20℃)で行われた RIA模擬実験の結果に十分な安全余裕を持たせて定められました。この破損しきい値が原子炉運転時の温度条件(約280℃)にも適用されていますが、高温時に金属の延性が増すことを考慮すると、腐食による被覆管の脆化に起因する高燃焼度燃料に特有の破損に関しては高温時の方が安全であり、結果的に安全余裕が過剰となっている可能性がありました。
そこで、約280℃で高燃焼度燃料を取り扱うための高温実験用カプセルを開発し、実験を開始しました。その結果、高燃焼度 PWR燃料を用いた実験で高温時の破損条件の定量化に初めて成功し、高温では室温よりも破損しにくいことを実証しました。図6-2は燃料棒が破損に至る際の熱的負荷を表す「破損時の燃料エンタルピー増分」を被覆管腐食量の指標である「外面酸化膜厚さ」で整理した結果です。酸化膜厚さが同じなら、高温の方が壊れにくいことを示しています。図6-3は室温実験,高温実験の各々で破損した被覆管の断面を比較しています。いずれの場合も外面の複数箇所で生じたき裂のうち ひとつが進展して破断に至りましたが、破断部以外のき裂形状に着目すると、高温実験では幅が広く先端が丸みを帯びていることから、より大きな塑性変形に至るまで破断しなかったと解釈されます。これらの結果は高温カプセルを用いた実験で初めて取得されました。今後更に高温データを蓄積し、より詳細な知見を得る見込みです。
この成果を活用し、温度に応じた適切な安全余裕を備えた破損しきい値を定めることが可能です。すなわち、安全性を損なわず経済性の向上を図ることができる、高い科学的合理性を備えた安全基準の実現が期待されます。
高温カプセルの開発及び高温実験は、経済産業省原子力安全・保安院から委託された「燃料等安全高度化対策事業」の一環として実施しました。