図6-18 臨界ベンチマーク解析結果の頻度分布(均質低濃縮ウラン系の例)
図6-19 均質 ADU(II)-H2Oの臨界量データ(水反射体付き)
原子炉では核燃料物質を臨界にして中性子を媒介にした核分裂連鎖反応を起こし、発生するエネルギーや放射線を利用します。しかし、原子炉以外では核燃料物質は決して臨界になってはいけません。このための安全管理を「臨界安全」と総称します。
計算技術が発達し、核燃料物質などの材料中の中性子と原子核の核反応を解析し、核分裂連鎖反応が持続する臨界なのか未臨界で安全なのかを、かなり良い精度で判断できるようになりました。解析では、中性子の核分裂による発生数と吸収などの消滅数の比である中性子実効増倍率kを計算します。理論的にはk=1ならば臨界、k<1ならば未臨界です。実際の安全管理に解析手法を用いる前には、その精度を定量的に把握することが必須であり、我が国で開発・整備された連続エネルギーモンテカルロコードMVPと核データライブラリJENDL-3.2を組み合わせて検証しました。
検証の基準として、臨界実験で測定された様々な核燃料物質の臨界量を用います。今回の検証作業では、経済協力開発機構原子力機関(OECD/NEA)の国際臨界安全ベンチマーク評価プロジェクト(ICSBEP)で、各国で実施された臨界量測定の結果をデータベースに集積したものを用いました。そこには、核燃料物質などの材料の種類・構造・寸法などについて、ほぼ臨界になった条件が詳細に説明されています。
これらの情報に基づき解析すると、図6-18に示すようにkは1の周りに分布します。その原因としてICSBEPの情報の不確かさや核データライブラリの誤差が考えられますが、重要なことは、解析結果がk<1でも現実には臨界になることがあるということです。しかし、分布の下限より十分に小さい値を推定臨界下限増倍率klimに選べば、解析結果がk<klimのときは現実にも未臨界であると判断できます。分布の統計検定を行ったところ、klimに0.98を採用できることが確認できました。約20年前の解析技術に0.95を採用したことから比べて大きな進歩です。
逆に、k=1及び0.98となる様々な核燃料物質の最小質量・寸法・濃度などを同じ解析手法で算出し、核燃料物質を取り扱う機器の設計や手順の策定の参考とするために、例えば図6-19のように整理し、臨界安全ハンドブック・データ集第2版として公刊しました。初版には掲載していなかった種類のデータも追加し、使いやすいハンドブックになっています。