図6-15 炉心損傷事故の際のヨウ素放出
図6-16 ヨウ素放出実験
図6-17 有機物濃度と酸素濃度の影響についての実験結果の比較
原子力発電所の安全とは、公衆へのリスクが適切に抑制された状態をいいます。万一炉心が損傷するような事故が起こると、炉心にある放射性物質が環境へ放出される可能性があり、公衆へのリスク評価では、その種類や量を評価することが必要です。そのような放射性物質のうち、ヨウ素は化学反応により気体となって放出されることがあり、さらに、生物の体にとりこまれやすいため、健康への被害を評価する上で最も重要です。格納容器の漏えいや破損の場合、放射性物質は気体の流れとともに環境へ放出されるので、格納容器内で気体状となるヨウ素の量が重要です。
ヨウ素が炉心から格納容器へ放出されるときは主に水に溶けやすいヨウ化セシウム(CsI)になっており、多くは格納容器内で水に吸収されます。しかし、事故時の格納容器内には強い放射線があり、水に吸収された CsIは放射線による化学変化で気体状のI2や有機ヨウ素に変化します(図6-15)。有機ヨウ素は格納容器内の塗料から出てくる有機溶剤などの有機物とヨウ素が反応してできると考えられており、有機ヨウ素のひとつであるヨウ化メチルなどは特に気化しやすく、壁などに吸着して留まることもないため、とても放出されやすい物質です。
私たちはこのような放射線場でのヨウ素の化学変化による気体状ヨウ素の放出について、実験で調べました。図6-16のように、格納容器内に存在する種々の物質を添加したCsI水溶液を容器に入れ、γ線を当てて気体状ヨウ素の放出量を測定しました。容器内では、水溶液の上に一定の速さでガスを流し、気体状のヨウ素が出てくると、そのガスとともに下流に運ばれてフィルタで捕集されます。この方法で、もとの水溶液にあったヨウ素のうちI2または有機ヨウ素として放出された割合を測定できる仕組みになっています。
図6-17は、壁の塗料に含まれる有機物のひとつであるメチルイソブチルケトン(MIBK)を水溶液に添加し、また、水面上を流すガスの酸素濃度を変化させて、 I2及び有機ヨウ素の放出割合を調べた結果の比較です。この実験により、有機物と酸素の濃度がヨウ素の放出にどう影響するかに関するデータが得られました。今後、化学反応モデルによる計算でこの結果を説明できるようにし、炉心損傷事故におけるヨウ素放出量をより確かに評価するために役立てることにしています。
本研究は、独立行政法人原子力安全基盤機構からの受託研究「シビアアクシデント晩期の格納容器閉じ込め機能の維持に関する研究(ガス状ヨウ素放出抑制に関する試験)」の成果の一部です。