図3-21 乱流輸送現象を引き起こす揺らぎ(静電ポテンシャル)の構造(左図)と温度分布の鳥瞰図(右図)
図3-22 温度揺動と乱流輸送現象の相互作用によって伝搬する雪崩的な熱輸送
図3-23 加熱パワーの異なる数値実験で観測した温度分布(対数プロット)
核融合炉心の温度分布は炉心出力を決める重要な要因となっているため、できるだけ高い炉心温度を達成することが望まれます。しかしながら、実験では温度勾配の大きさがある一定値以下に制限されて、炉心温度の上昇が妨げられる「温度分布の硬直性」と呼ばれる現象がしばしば観測されます。温度分布はプラズマの加熱パワーとプラズマ中に励起される揺らぎがもたらす乱流輸送現象のバランスによって決定されますが、温度分布を固定入力パラメータとして乱流輸送現象を評価するタイプの従来の数値実験では、温度分布を強く制限する、あるいは、一定の温度勾配を維持するように熱輸送が大きく変化する現象を十分に説明できませんでした。
そこで、実験と同様に加熱パワーを与えた状態の下で乱流輸送現象と温度分布形成を同時に第一原理計算で発展させることにより、乱流輸送現象と釣り合った状態にある温度分布を自己無撞着に決定できる新たな数値実験コード(図3-21)を開発し、「温度分布の硬直性」が発生する機構を調べました。その結果、このような釣り合いの状態にある温度分布では加熱パワーを増加させても温度分布をほとんど変えずに熱輸送だけが増大するという、砂山に砂を落としても一定の高さを保って砂が流れ続けるのと同様の輸送現象が「温度分布の硬直性」をもたらしていることが分かりました(図3-23)。この輸送現象は温度分布の揺動と乱流輸送現象の相互作用がもたらす雪崩的な熱流束の大域的な伝搬によって発生します(図3-22)。また、砂山の雪崩では勾配の凹凸が逆方向に伝搬するのに対し、プラズマ中の雪崩では温度勾配の凹凸どちらかが卓越して片方向に伝搬し、その向きはプラズマ半径方向の電場構造(勾配の符号)によって決まることが分かりました。この結果は、プラズマ中の電場構造を変化させることによって雪崩的な熱輸送の特性を制御できる可能性を示唆しています。
以上の発見は「温度分布の硬直性」を第一原理計算で解明した世界初の成果であり、ITERや原型炉におけるプラズマ輸送特性を評価・予測するための基礎を与えます。