図3-24 小型Tターゲット断面図
図3-25 製作した小型Tターゲット
図3-26 入射重水素ビームの量による発生中性子数の変化
核融合炉では、重水素と三重水素(トリチウム)を高温のプラズマ状態にして核反応を起こし、14 MeVのエネルギーの中性子を発生させ、この中性子のエネルギーを熱に変える(発熱)ことにより発電を行います。また、この中性子をリチウムを含む物質に照射して核融合炉の燃料であるトリチウムを核融合炉の中で作ります(トリチウム生産)。一方、安全のために、この中性子を核融合炉の施設外に漏れないようにする(遮へい)必要があり、また、核融合炉の機器に中性子が当たってできた放射性物質(放射化)による作業者の被ばくも抑えなければなりません。核融合炉の開発の中で、このような発熱,トリチム生産,遮へい,放射化をどの程度正確に設計で予測できるかを明らかにすることが大きな課題のひとつになっています。
原子力科学研究所にある核融合中性子源施設(FNS)では、重水素を350 kVの静電場で加速し、加速した重水素ビームをトリチウムターゲット(Tターゲット)に当てることにより、核融合炉で発生する中性子を作り、この中性子を用いて、上記課題に対する研究を行っています。Tターゲットは銅製基板にチタンを薄く蒸着し、そのチタン層にトリチウムを吸蔵させたもので、FNSでは直径3 cmの小型Tターゲット(図3-24)を使っています。Tターゲットを製作するには、大量のトリチウムを取り扱うことのできる施設及びトリチウムを薄いチタン層に十分に吸蔵させるための技術が必要であるため、フランスのメーカーが市場を独占していました。
銅製基板に蒸着したチタン層に不純物が付着しているとトリチウムを吸蔵させることができず、この不純物を取り除くことがTターゲット製作の最大の課題でした。重水素ガスを用いたコールド試験を何度も繰り返すことにより、不純物の主成分が水分であることを特定し、この不純物を除去するための加熱吸蔵装置を開発しました。この加熱吸蔵装置を、原子力科学研究所にある大量のトリチウムを取り扱うことのできるトリチウムプロセス研究棟(TPL)のグローブボックス内に設置し、輸入品とほぼ同量(約400 GBq、約1 mg)のトリチウムを吸蔵した小型Tターゲットを8個同時に製作することに成功しました(図3-25)。FNSで製作したTターゲットの発生中性子量の入射重陽子ビーム量ごとの変化を調べた結果、輸入品よりも入射重陽子ビーム量による減衰が少ない(図3-26)ことを確認しました。