3-2 ITER要求性能に迫る負イオンビーム加速を達成

−ITER中性粒子入射装置用1 MeV加速器開発−

図3-6 ITER NBIの原理実証試験用MeV級加速器

図3-6  ITER NBIの原理実証試験用MeV級加速器

イオン源で生成した負イオンを、高電圧により1 MeVまで加速 します。ITERのビーム電流要求値:40 Aに対して、本加速器では約 0.5 AのビームをITERと同等の電流密度で加速する実証試験を行っています。

 

図3-7 MeV級加速器性能の進展

図3-7 MeV級加速器性能の進展

加速器の耐電圧改善やビーム軌道補正などの改造を進めた結果、安定した負イオン加速が可能となり、最高でエネルギー0.98 MeV,電流密度185 A/m2(パルス幅0.4 s)の負イオン加速を実現しました。

ITERでは、プラズマ加熱及び電流駆動用として、1機あたり最大1 MeVのエネルギーで16.5 MWのパワーを1時間連続して入射可能な中性粒子ビーム入射装置(NBI:Neutral Beam Injector)の設置が計画されています。NBIでは、加速器で発生させた高エネルギーの水素負イオンビームを中性粒子ビームに変換したあと、プラズマへと入射します。ITERで必要な高パワー中性粒子ビームを得るためには、加速器で1 MeV,40 A(電流密度:200 A/m2)の負イオンビームを発生させることが必要です。私たちはMeV級イオン源試験装置において、図3-6に示すITER NBI用1 MeV加速器(MeV級加速器)の開発研究を行ってきました。この加速器は、頂部にあるカマボコ型負イオン源で発生させた水素負イオンを、引出電極に開けた多数の孔からペンシル状ビームとして引き出し、5枚の加速電極間に1段当たり0.2 MV(5段合計1 MV)を印加してその電位差で負イオンを加速する静電加速器です。

図3-7に私たちが行ってきたMeV級加速器開発の進展を示します。従来の加速器(2007年まで)では、電極間での放電のため高電圧を安定に保持することができず、エネルギーが0.8 MeV、電流密度も140 A/m2に留まっていました。試験後の詳細な内部観察や電界計算の結果、電極取付け部の段差や支持枠の端部に高い電界が発生しており、ここを起点として放電が発生していることが分かりました。そこで電極間距離を延長するなど電界強度を低減する改造を行った結果、エネルギー0.86 MeV、電流密度160 A/m2まで性能を向上させました(2010年)。さらに、高エネルギー加速時には、負イオンビーム軌道が加速器内の磁場や隣り合うビーム同士の電気的反発力により曲げられ、電極に衝突して負イオンが失われるとともに、電極間での放電の原因となることが明らかとなりました。そこでビーム偏向を補正する負イオン引出電極を新たに開発した結果、ビームの電極への衝突と放電の発生が抑えられ、エネルギーはITERの要求レベルにほぼ相当する0.98 MeVに到達し、負イオン電流密度も185 A/m2まで増加することに成功しました。今後はエネルギー及び電流密度の更なる安定性向上とともに、加速器の長パルス化に向けた研究を行っていく計画です。